2023年07月11日

スペシャルインタビュー

【事例インタビュー】 タクシーの社内業務DX〜佐世保タクシーとWELLCABの取り組み〜

特集・イベント

 

 

VSIDEではビジネスアソシエイトが市内事業者様のDX推進のサポートを行っています。
今回ご紹介するのは自社の業務管理システムでDXを行ったブルーキャブグループの佐世保タクシー様。
従来の業務システムを外部システム会社による買い切り型から自社開発のSaaS(サース:インターネットを経由して利用するソフトウェア)に移行し、大幅なコストカットを実現しました。インタビューでは、歴史あるタクシー業界でDXを推進できた背景と円田代表の経営手腕に迫ります。

 

 


目次
佐世保タクシーの4代目として事業承継
WELLCAB JAPAN株式会社を設立
徳島で開催されたビジネスコンテストに参加
DXを実現できた背景
今後の展望


 

 

 

 

佐世保タクシーの4代目として事業承継

 

ー佐世保タクシーと円田さんの簡単な紹介をお願いします。

 

佐世保タクシーは1936年12月に創業した佐世保で最も古いタクシー会社です。2011年に先代の社長である父が61歳で亡くなり、当時28歳だった私が4代目を就任しました。

佐世保タクシーはほか4社(長崎エリア3社・福岡エリア1社)と共にブルーキャブというタクシー会社グループを作っています。その代表も私が務めています。

 

ー2011年に代表に就任されたとのことですが、家業を継ぐことは以前から決まっていたのですか?

 

いいえ。家業を継ぐつもりはなく、大学卒業後は東京のシステム会社でシステムエンジニアとして働いていました。
ただ、父の病気が発覚したことで事情が変わりました。いろいろ悩みましたが会社を辞めて佐世保に戻り、事業を継ぐことになりました。

 

 

WELLCAB JAPAN株式会社を設立

 

ー円田さんは代表就任後、WELLCAB JAPAN株式会社という別会社を立ち上げました。会社を設立した背景について教えていただけますか?

 

タクシー業界を取りまく不条理がいろいろあるのですが、そのうちの一つが運用管理などの業務システムです。

 

タクシーの業務システムは、各地域のベンダー(ソフトウェアの販売元)やSIer(エスアイアー:システム導入に際して設計・運用・保守などを請け負う会社)がオーダーメイドで作っています。しかし、それだとお金が非常にかかります。
さらに言うと、法改正があったり、社会情勢が変わると、システムが追い付かなくなってしまう。かといってシステム改修をしようとすれば、また多額なお金がかかってしまうという状態でした。

 

またシステムの改修を何度も重ねているため、ベテラン社員しか使い方を理解できず、業務が属人化し、効率的な運用が困難でした。

 

ー従来型の買い切りシステムは高額であり、業務体系が人に依存していたと。その改善として立ち上げたのが、WELLCAB JAPAN株式会社(以下WELLCAB)ということですね。

 

はい。
タクシーとお客様をつなぐフロント側のDXは「DiDi」や「Uber」など大手資本が入り、進んでいます。
私が目を付けたのは、お客様から見えない部分、バックエンド側のDXです。

 

ITやDX投資は本来業務効率化に貢献するべきものです。しかしながら、いつの間にか複雑化し、現場は変化する社会情勢に取り残されてしまっている。生産性の足枷になってしまっている既存のシステム分野を改善するため、WELLCABを設立しました。

 

 

 

 

ーWELLCABで開発したシステムはいわゆるSaaS型と呼ばれるものですが、詳しく教えていただけますか。

 

WELLCABの開発したSaaS「Cabriolet(カブリオレ)」はカスタマイズ不要の、タクシー会社専用の業務システムです。車両の運行管理から、給与管理、勤怠管理などをクラウド上で行います。

 

当初から、各社のルールの違いを想定したシステム作りをしており、個別の作り込みなしに使えるようにしました。また、システム改定や制度変更は定期的にバージョンアップします。

 

ーパッケージの価格設定とWELLCABで提供しているSaaSの価格設定と、どれくらいの価格差があるのですか?

 

既存のインストール型システムと当社のシステムとは、ビジネスモデルや料金体系がそもそも異なるので一概に比較することは難しいです。

 

ただ、一つ言えるのは、当社のシステムは法制度・商習慣など変化していく社会情勢に常に対応可能なシステムであることです。しかも定期的にバージョンアップを行いますので月額固定の利用料だけで、常に最新のシステムを使用し続けられます。当社のシステムに優位性があるのはこういった点だと思います。

 

ーSaaS導入によってどれくらいのコストカットが実現できましたか?

 

高額なパッケージシステムの購入費はカットされました。また、ベテランたちに頼らなくなった点も大きいです。

 

システム自体は機動力も高いですし、設定変更も容易にできます。社内の運用フロー変更も柔軟に対応できます。つまりエクセルや紙で運用されていた業務をCabrioletの機能に吸収した事で「この人じゃないと業務が回らない」ということが無くなるんですね。

長年の経験やノウハウを吸収して機能に反映させているので属人的な業務がなくなり、ベテラン職員は自然と減っていきました。こういった方々の分だけでも年間2,000万円くらいの経費削減になっています。

 

ー業務効率による経費削減の効果の方が大きいということですね。

 

そうですね。開発に数千万円かかっていますが、自社のグループで使うだけでも初期投資分は数年で回収できる計算ですね。

 

 

徳島で開催されたビジネスコンテストに参加

 

ー新しい事業に取り組むなかで経営者との繫がりを持たれたと思いますが、XTaxi(クロスタクシー)の活動についてもお話いただけますか?

 

業界団体であるタクシー協会は全国各地に存在するのですが、それとは別に比較的若手を中心に構成された組織がXTaxi(クロスタクシー)です。

タクシー業界の厳しい現状を打開しようと情報交換をしたりしています。面白そうだと思って私も在籍しています。

 

ーXTaxi主催のビジネスコンテストに参加された時のことを教えていただけますか?

 

2021年8月に徳島で開催されたビジネスコンテストに登壇致しました。そこでWELLCABのシステムを紹介しました。
参加する前にはVSIDE(佐世保市産業支援センター)にご相談させていただき、プレゼン内容をブラッシュアップしています。賞は獲れませんでしたが公にお披露目できたのがよい経験でした。

 

ー入賞はできなかったと円田さんはおっしゃっていますが、2位とは僅差でしたね。
その後、開発が加速して運用を開始されたと思いますが、構想から運用までどれくらいかかりましたか?

 

構想からだと4年くらいです。2021年4月からブルーキャブ内で使い始めて、現在2年が経っています。
勤怠管理から売上管理、給料計算、給料振り込みまで、WELLCABのサービス全てを当初から利用しています。今のところ問題なく運用できています。

 

 

XTaxi主催ビジネスコンテストの会場

 

 

ー外販はいつから始められたのですか?

 

2年間自社で運用し、問題なかったので2022年から外販を開始しています。

 

ー導入実績や評価などを教えていただけますか?

 

現在は全国で5社にご採用いただいています。

業務管理システムの分野で既存のベンダーさんが当然いらっしゃるのですが、その会社とコンペの結果、当社を選んでもらったことがあります。また、長年付き合ってきた地元のシステム会社からWELLCABにリプレースしてもらったケースもあります。

 

ー選ばれる理由はどのようなところだと思いますか?

 

既存のパッケージシステムではなく、SaaS型のシステムという点で選んでもらえていると思います。

これまでのパッケージシステムはタクシー会社がシステム会社に依頼、提案してベンダーが作るという形でした。

 

WELLCABのシステム開発はその逆です。システム会社であるこちら側が「この機能どうですか?」とタクシー会社に提案する。システムのバージョンアップはこちらが行うので、タクシー会社は利用期間中はずっと、追加の費用負担がなくその恩恵を受けられます。これが既存のパッケージシステムとの違いであり、メリットです。

 

 

DXを実現できた背景

 

ー100年もの歴史があるタクシー業界でDXを実現できた秘訣はありますか?実際に実装するプログラマーやデザイナーはどうされたのですか?

 

これはなかなか特殊な例だと思うのですが。
まず、私自身がシステムエンジニアとして業務を標準化するようなソフトの設計開発を手掛けてきた経歴があります。そのため汎用性の高いシステムの作り方がわかります。
そしてタクシー業界についても実務に携わることで多くの学びを得ました。加えて信頼できるエンジニアがそろったソフトウェア会社と繫がりがありました。こういった条件が揃ったことで実現できたと思います。

 

 

VSIDEでは佐世保市内事業者様へのDX推進支援の一貫で、システム開発の発注時に有用なRFP(リクエストフォープロポーザル)の制作サポートも実施しています。

 

 

 

ー構想含めて4年間、事業に投資し続けるのはなかなか難しい経営判断だったと思いますが、その辺はどうされたのですか?

 

前職で携わっていた業務システム開発の規模感に比べると、タクシー業務に絞った設計はそこまで複雑ではなかったため、自分で作ってしまおうという判断ができたと思います。また、トータルコストで考えると十分に回収できる計算でした。

 

ー作る上で想定外のことは起きましたか?他社にヒアリングなども行いましたか?

 

ヒアリングをする中で「ああ、やはりそうか」という印象が大半でしたね。大きく方向性を変えることはありませんでした。タクシー業界がもつ共通した悩みだったということも改めて認識しました。

 

ー社内の反対など、システムを作る上でのハードルはありましたか?

 

今回のシステム開発において、設計開発フェーズでは既存の社員は全く関わっていなかったので反対はありませんでした。もともと必要だと思って作っているので、もし反対する人がいるとしたらそれが一番ガンなのではないかと。

 

効率化や生産性を良くする目的のものなので、これまでのやり方や時間をかけるべき業務の価値を変えてしまう。いわゆる今までの業務を踏襲したい方からすると嫌われるシステムなんです。システムを導入しないほうが自分の価値が守れるわけです。ただそういった発想ではなく、今までと違う分野で新たな価値を発揮して欲しいと考えています。

これはタクシー業界に限らず、どの業界においてもDXを進めるうえで起こりうる課題だと思います。

 

 

 

 

今後の展望

 

ー売上規模や国内シェアなど、今後の展望はありますか?

 

結論からすると、あまりないですね(笑)。
スタートが自社のため、から始まって、自社が助かれば全国のタクシー会社も助かるはずという思想でやっています。

本当に投資すべき分野に資金を集中できるシステムが、本来あるべき姿だと思っています。システムにお金がかかって、必要なところにお金をかけられないような本末転倒なシステムにはしたくありません。

 

元々自社タクシーグループを生かすために生まれたシステムなので、外販においても適正価格でご利用していただき、共存していきたいと思っています。

 

ー今後の予定について教えてください。

 

タクシー事業を運営するにあたって一社の企業努力で乗り越えられない課題が多くあります。

 

当社が作ったシステムはみんなで使えば安くなりますし、タクシー会社の運用のノウハウは、機能として詰め込み、利用している全社に還元できます。
それこそ規模を問わず使えるので、大きい会社から地方の中小零細の会社まで手助けになるよう、展開していきたいと考えています。

 

ー貴重なお話、大変ありがとうございました。

 

 


 

円田 真(えんだしん)
ブルーキャブグループ代表取締役

人生のチャレンジは20代のうちしかできないとの思いから、文系学部卒にも関わらずシステム会社のエンジニアの道へ。大手企業のシステム開発に関わりエンジニアとしてのスキルを高める。帰郷の意志はなかったが、前社長である父の病状悪化により2011年、4代目社長に就任。サウナが趣味の4児の父。

 

聞き手
市江 竜太(いちえりょうた)
VSIDEビジネスアソシエイト
Webエンジニアからキャリアをスタートし、近年は経営に携わる。これまで10社以上の創業と50以上のITサービス開発に関与。スタートアップ支援の経歴から広範なネットワークを持つ。
2021年春より佐世保市ビジネスアソシエイトに就任し、佐世保市内でのDX推進やスタートアップ機運醸成を目指す。