2023年12月23日
事業承継
アトツギアップデートSASEBOを開催しました
特集・イベント、支援情報
佐世保市内の事業後継者、アトツギの皆さんを対象にビジネスプランをブラッシュアップするイベント「アトツギアップデート」を開催しました。
この記事では、当日の様子などをお伝えします。
アトツギ甲子園について
市内のアトツギを対象として、アトツギ甲子園に向けたワークショップをVSIDEで開催しました(2023年12月8日)。
アトツギ甲子園とは、全国各地の中小企業小規模事業者の後継者が、既存の経営資源を生かし、新規事業アイデアを競うピッチイベントです(中小企業庁主催)。
昨年に引き続き、一般社団法人ベンチャー型事業承継の山岸勇太氏と、公益財団法人北九州産業学術推進機構DX推進本部の糸川郁己氏に来ていただきました(昨年の様子についてはこちら)。
今回は山岸氏にアトツギの支援事業について詳しく伺った後、アトツギ甲子園にエントリーした株式会社池野酒販の池野氏の壁打ちを行いました。
アトツギの抱える課題
アトツギの抱えている課題とは一体どのようなものですか?
1つは圧倒的な親子関係です。
子供の頃から事業後継者として扱われ、プレッシャーやストレスを感じているアトツギが多くいます。私自身も大工一家に生まれ、子どもの頃からアトツギとして扱われてきました。正直嫌な思いも経験してきました。
先代と社員の信頼関係がある中に急に戻ってきて継ぐと言っても、簡単には社員はついてきません。先代が長く働いていれば業界にも詳しいし、影響力を持っています。この圧倒的な存在感に押し潰されるわけです。
2つ目は先代との価値観の違いによる軋轢です。
高度経済成長期やバブル経済期のような時代を生きてきた先代たちは、物を作れば売れるビジネスができました。しかし、20代30代の今の時代は人口減少もあり、ビジネス環境が大きく変化しています。今はどれだけ時代に合わせてビジネスを変えていけるかが、生き残る上で重要です。しかし、先代たちにはこれがなかなか伝わらない。成功体験もある分、新しいことをしようとするアトツギに抵抗感がある。危機感という点でも未来を語る上で親世代とアトツギの間では大きな隔たりがあります。
3つ目には悩みをシェアする場がないということです。
地元での風評被害を恐れる傾向から、事業の悩みを外の人間に話すことはタブーとなっている。先代とも軋轢があって事業の相談ができない。
このようにアトツギはスタートアップの起業家とはまったく違う環境下にあり、孤独感や閉塞感を抱きながら事業承継をしているという現状があります。
支援内容について
アトツギを支援する意義は?
日本中の中小企業が330万ある中で、9割が同族承継です。中小企業の円滑な同族承継や改革が地域経済の安定に寄与しています。たとえば、関西の経済圏の中心人物になっているのは2代目、3代目のアトツギの人達です。この同族承継の支援をすることが日本経済にとって重要だと考え、私たちは支援をしています。
山岸さんがやられているアトツギ支援とはどういったものでしょうか?
学びの場を提供しています。アトツギにとって事業承継する時までに知識や経験を重ねてかねばなりません。その1つが全国のアトツギとつながれるアトツギファーストというコミュニティです。
アトツギファーストではオンラインで情報交換をしたり、ファイナンスの勉強をしたり、先輩アトツギの話を聴いたりしています。
また、ワークショップでは自分らしさと家業を掛け合わせて、どのようなビジネスを展開できるかなど、アイデアのあぶり出しを行います。
個別の相談などはされていないのですか?
コンサルタントといったものではなく、一緒に強みを考える支援をしています。私自身たくさんのアトツギの事例を知っているので、選択肢などを提示しながら発想が広がるようサポートしています。
Q.最近のアトツギ支援の事例を教えて下さい。
大分県のプログラムでは7か月間に渡り、毎月勉強会を開いて事業のブラッシュアップをしました。その結果、昨年のアトツギ甲子園でチャンピオンになったアトツギメンバーがいます。福岡でも県として事業を行っていてそのプログラムにも携わっています。
こういった学びの場に来る人たちは課題感を持って来るのですか?
意識が高い人ばかりではなく、商工会や周りから背中を押されて来る人もいます。以前は積極的な人が多かったのですが、今は「聞くだけ聞いてみよう」と言った軽い感じで参加される方も増えてきています。
地域を超えてアトツギの横のつながりが大切
アトツギのコミュニティの魅力とはどういったところでしょうか?
アトツギならではのウェットな話ができる点です。
やはり地域に住んでいると、コミュニティが閉鎖的になり、世界が広がらないし視野も狭くなりがちです。事業の悩みも地元ではなかなかオープンに話しづらい。
しかしアトツギコミュニティでは違う世界や違う地域の人と出会える。業種業界関係なく集まっているので、さまざまな取り組みを知ることができ、とても勉強になると参加者は言っています。
佐世保のメンバーはいますか?
募集中です。佐世保のアトツギの皆さんも、まずはコミュニティに参加して地域を超えた横のつながりを作るとよいのではないでしょうか。アトツギの抱える悩みは全国的に共通している点があります。地元でもない、自社でもない、サードプレイスとして使ってもらいたいです。
刺激し合える環境に身を置くことで、事業に対する向き合い方がガラッと変わることもあります。まずは環境に身を置くことがとても大切だと思います。
ワークショップと壁打ち
次は糸川氏にバトンタッチし、最初に質問が投げかけられました。
「なぜ新規事業が失敗に終わるのか」
答えは、”誰も欲しいと思わない製品・サービスを作ってしまうから”。誰のどのような課題を解決していくかを出発点とすることが大切とのことでした。それを踏まえ、株式会社池野酒販のアトツギである池野晋太郎さんの事業プランに対する壁打ちがスタート。
池野さんは日本酒の冷凍販売を計画しています。コロナ禍でお酒の売れ行きが下がった時に、社長の発案で魚の冷凍販売を開始。特殊な瞬間冷凍機を導入したので、これを日本酒の冷凍にも転用し、販売したいとのことでした。
搾りたての酒を冷凍で全国に届けるアイデアに、糸川氏も山岸氏も「面白い」と評価。
糸川氏からは「美味しいお酒を届けたいから冷凍するのではなく、買い手の課題や悩みをどう解決するためなのかという視点をいれるとよい」とアドバイス。
ストーリーとしてはとても独自性があり、経営資源の活用もできているので、顧客視点の価値をプラスしながらエントリーシートを作成していきましょうとのことでした。
参加者からも活発な意見が飛び交い、池野さんのプランもブラッシュアップできました。
おわりに
2024年1月に開催されるアトツギ甲子園(四国・九州大会)に向け、今回マンツーマンで壁打ちを行いました。
3月8日に開催される全国大会はオンライン視聴(要事前申込)もできますので、今回エントリーできなかった方も、次回に向けて学びの場にしていただけたらと思います(詳しくはこちら)。
またアトツギコミュニティ「アトツギファースト」は横のつながりを作る上でとても有意義です。佐世保のアトツギの方もふるってご参加ください。
今後もVSIDEではセミナーやワークショップなど、アトツギに向けた学びの場を提供していきます。個別サポートも行っていますのでぜひVSIDEにお気軽にご相談ください。
講師
山岸勇太氏
一般社団法人ベンチャー型事業承継事業 戦略統括兼九州エリア責任者
1982年石川県小松市生まれ。実家は建築業を営んでおり、一族全員が大工家系。2005年法政大学工学部を卒業後、NTT西日本を経て2013年福岡県庁民間中途採用枠で入庁。2022年4月より一般社団法人ベンチャー型事業承継。
糸川郁己氏
I.I.代表、Code for kitakyusyu事務局長
1980年北海道生まれ。仙台でSEとして就職し、2007年、異動を機に福岡県へ移住。現在は北九州市外郭団体の職員として事業連携および新ビジネス創出を支援。「北九州テイクアウトマップ」の開発や、「北九州市コロナ感染症情報サイト」の立ち上げなどを実践。