2023年12月27日
小売業DX
【事例インタビュー】AIカメラ導入で人流を可視化 │ 株式会社西沢本店の取り組み
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VSIDEでは市内事業者のDX推進のサポートを行っています。
今回は、佐世保市中小企業デジタル化支援事業補助金(※)を活用して、AIカメラを導入した株式会社西沢本店様を紹介します。AIカメラ導入の経緯や導入効果などについて、代表取締役専務の西沢芳徳氏に話を伺いました。
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※佐世保市中小企業デジタル化支援事業補助金:新しい生活様式の実践や生産性向上への取組みとして、ITツールを導入する事業に要する経費の一部を補助することにより、市内中小企業のデジタル化を促進することを目的とした補助金で(今年度は終了)
https://www.city.sasebo.lg.jp/kankou/syouko/dejitaru.html
分析をするためのデータがなかった
今回「TWINKLE西沢」にAIカメラを導入されましたが、どのような課題感があったのでしょうか?
コロナ禍や高齢化の波を受け、売上の伸び悩みやコスト削減が大きな課題となっていました。
11年ぶりに東京から戻ってきたのですが、最初に取り組みたかったのが現状分析です。しかし、POSレジの売上データしかなく、手の打ちようがなかったんです。
潜在層の把握がこれまでできていなかったのでしょうか。
実際に購入した人のデータしかありませんでした。正直、売上データだけでは打つ手を考えられません。購入までには、来店者数、フロアの訪問者数、そして接客したお客様の数など、掛け算のように要因があるわけです。しかしながら購入者のデータしかなく、売れない原因の分析も難しかった。
たとえば、来店者が少なくて売れていないのか、来店者はいるけれど商品力がなくて売れないのか、はたまた、接客が十分でないから売れていないのか。つまり、仮説検証のためのデータが欲しかったのです。
売上データだけでは十分でないと?
今は趣味嗜好やライフスタイルも多様化しています。消費者の行動が一辺倒ではないし、読みにくい。消費行動にいたるまでのデータをとっていかなくてはいけない時代になっています。
なので肌感覚でしかわかっていなかったものを数値化し、細かく分析することで売上増加やコスト削減につなげたいと考えました。
AIカメラ導入の経緯
AIカメラを導入した経緯について教えてください。
前職でデジタル領域の業務に携わってきた経験から、東京のベンチャー企業イデイン株式会社(以下イデイン社)とつながりがありました。イデイン社は今回AIカメラのシステムを提供してくださった会社です。
イデイン社を選んだのは前職で取引があったという点だけでなく、コストもかからずにすぐに始められるという点があったからです。
既存のAIカメラの中には設置工事が必要なものもありますが、イデイン社のAIカメラは工事が不要で置く場所も自由に変えられます。またデータの管理もダッシュボードを見るだけなので難しくありません。
今回導入されたエッジAIとはどのようなAIですか?
エッジAIとは、デバイスの中に簡易的なAIが内蔵されているものを言います。カメラの中で画像データを解析して数値化し、そのデータをクラウド上に集めるシステムです。
エッジAIのメリットは来店者の個人情報を守りながら使える点です。今は個人情報の保護の観点から、カメラで撮った情報などを勝手に使うことができません。しかしエッジAIは解析データだけを取り扱うシステムなので、プライバシーも守られています。個人は特定できないけれども最新式のAI解析によって人数、年齢、性別などの必要な情報を収集できる点が良いところだと思います。
今回佐世保市の中小企業デジタル化支援事業補助金を活用されましたが、以前からご存じだったのでしょうか?
AIカメラ導入を決めた時点で探しました。長崎県と佐世保市の両方に補助金制度があることがわかり、今回は佐世保市に申請しました。補助率を比べると長崎県の方がよかったのですが、地元の佐世保市がスピード感をもって対応していただけると考え、佐世保市の補助金を使うことにしました。
対応はいかがでしたか?
1週間はかかると言われたのですが、5日後には承認がおりました。すばやく対応していただき、非常にありがたかったですね。
AIカメラで非購買客の把握も可能に
AIカメラを導入したことで新たな気づきや効果はありましたか?
導入して3、4か月なので売上効果などはこれからです。1年間のデータがとれると去年との比較ができると思います。とはいえ、コスト削減という観点では効果が出ています。
分析でどのようなことがわかりましたか?
これまでの予想を覆すような結果が出ています。3月に一度実証実験をしたところ、「来店者の7割が40〜50代」「特に人流の多い時間帯は開店後1〜2時間(10〜12時)と夕刻(16〜18時)」という結果が出ました。
これに加え、曜日によって来店者数のピークが違っていたり、セール時の動向も予想していたものと違っていました。
これらのデータを見ていくうちに、人員の配置が最適化されていないことがわかりました。人が多いピークタイムのときにお昼休憩があり、十分な接客ができていなかったのです。
この結果を受けて、お客様が多く来る曜日、時間帯に人員配置をする。そして、客数が少ない時間帯はフレックスで帰っていただく、ということをしました。このようにシフトを調整していけば接客カバー率が上がり、最終的に売上につながるのではと期待しています。
またPOSデータと来店者数を掛け合わせることで買い上げ率も見えてきました。繰り返し分析し改善していくことで一人当たりの生産性も上がっていくと考えています。
今後のITツール導入の予定
現在AIカメラは2台設置されていますが、今後増やす予定はありますか?
今は2階に2台設置していますが、様子を見ながら1階にも設置したいと考えています。フロアごとの比較も可能になりますので。
これはまた別の話になるのですが、今後は来店者の位置情報データの活用も考えています。
位置情報ってわかるんですか?
実は、みなさんが持っているスマホの位置情報はデータとして企業が利用しています。どのエリアにどれだけ滞在しているのかわかるんですよ。
それをどのように利用できたらと考えていますか?
チラシの配布エリアの選定です。今は、広範囲に折込チラシを入れているのですが、どの地域の方がお店に来ているのかがわかれば、エリアを絞ってチラシを入れられます。
五島から来ている方が実は多かった、となれば五島にも折込チラシを入れます。逆に来ると予想していたエリアからはあまりいないとわかれば、そこには入れない。チラシの反響率を上げる上で位置情報は重要になってきますね。
ITツールでビジネスを変える
これからやっていきたいことはありますか?
オンライン・オフライン両方の販売チャネルを活用して地域の顧客をサポートしたいと考えています。
オンラインの販売チャネルとはどういったものですか?
ECサイトです。高齢化も進み、バスの便数の減少もあります。今までのようにお客様を待っているだけでは生き残れません。高齢者がインターネットで買い物をするにはいくつかの障壁がありますが、120年の歴史を持つ西沢本店のECサイトなら安心して購入してもらえるのではと自負しています。
オフラインの販売チャネルはどういったものですか?
移動訪問販売です。キッチンカーのようなもので遠隔地に出向き、靴などECでは買えない商品について試着の機会を提供し、購入していただくといったサービスです。
食品は宅配サービスなどがありますが、衣類はなかなかないですね。
靴は実際に履いてみないと自分に合うかわかりません。食料だけでなく衣類も大切な生活必需品です。
これまで四ヶ町アーケードは市民のインフラとして機能していました。でも今は四ヶ町まで足を運べない人がいる。そういう人に向けてこちらからサービスを提供する必要があります。我々も生き残れないし、お客様も楽しい生活を送れないと思うので、次はそれが目標ですね。
いろいろやることがありますね!
はい。いろいろやりたいんですよ(笑)
こういった地域の状況を踏まえた施策を打つためにも、データをもとにした意思決定が必要です。いずれにしても、自社ビジネスの将来についての取捨選択や方針決定のために、ITツールは欠かせない存在です。
中小企業がDXを進めるためには?
中小企業がDXを進めるために、最初の一歩として何をしたらよいと思いますか?
DXを目的にするのではなく、業務が楽になることを想像してもらうことが大事だと思います。デジタル化にあたって、業務を見直す。すると業務が楽になる。かつデジタルすれば更に楽になる。そういう感じだと思います。つまり、業務が楽になることをイメージしてもらうというのが第一歩かなと思います。
VSIDEはDXに取り組みたいという経営者の方のために、無料でサポートを行っています。補助金の申請のお手伝いや経営相談を含め、すべての支援が無料です。お気軽にご相談ください。
西沢芳徳(にしざわよしのり)
長崎県佐世保市生まれ。
2022年に伊藤忠商事株式会社を退職しUターン。同年10月より株式会社西沢本店代表取締役専務に就任。
前職ではデジタル部門でBPO、デジタルマーケティング、デジタル販促、ベンチャー投資関連業務などに携わる。
一緒に面白いことをしたい、デジタルを使って解決したい人を募集中。