2025年09月18日

壁打ち

【後編】そのアイデア、誰かに話してみた?〜起業志望者のための壁打ち活用法

起業・経営に役立つ知識

 

 

前回の記事では、壁打ちの定義から壁打ちを行う際の視点、ビジネスにおける壁打ちの必要性などをご紹介しました。

後編となる今回は壁打ちの際に気をつけること、壁打ち相手の見つけ方をご紹介します。

 


 

 

壁打ちの際に気をつけること

壁打ちがうまくいけば未整理状態が解決されてスッキリし、やることが明確になります。ただ、それは必ず出来るわけでないでしょう。以下、壁打ちの際に気をつけたいポイントを提示します。

 

1.期待している点や求めている点をはっきりしておく

対人である以上、あなたが思っている成果が得られないこともあります。そうならないために、壁打ちで得たいことをなるべく明確したほうがいいでしょう。

例えば、既にアイデアはある程度あるが、対象者が本当にいるかが不安なのでそこを明確にしたい。ジャンルは決まっているが、方向性などは曖昧なのでそこを整理したい。自分の考えを聞いた上で、そのアイデアに対して意見がざっくばらんに欲しい。

これらはある種「相談」の鉄則とも言えます。受ける側視点でいえば、これらが明確ではない場合は、「お客様の期待値はなにか」をまず明確にするところから行います。そこが外れると、お互いに不幸だからですね。

 

2.「対象者」ではない人に意見を求めすぎない

期待値にも近いのですが、例えばラーメン好きな人向けといっているアイデアを、全くラーメンが好きでない友人に聞くなどは注意したほうがいいでしょう。

その友人が話を聞いてくれる、アドバイスをしてくれるという人であっても、その人が「欲しいかどうか」は別だからです。

いくらその友人に欲しいかを聞いても「欲しいかも」「自分は要らない」程度しか意見は出せないでしょう。

壁打ちとはあくまでも、そのビジネスアイデアを実現したりする可能性を高めるものです。友人へはアドバイスや意見はありがたいということを述べて、他の人に当たりましょう。

 

3.特定の人よりも複数人に聞く

一人しか聞けないなら仕方がないのですが、3人以上に聞くほうがいいでしょう。
それこそ、身内、親友、同僚、専門家など分けて、立場や価値観がある程度違うとか、狙いをずらしていくなどが考えられます。

一人ですと、その人が絶対的な立場になってしまい、壁打ちなのにその人の主観で構成されてしまいます。それは本末転倒ですから注意したいですね。

 

4.話を聞いてくれる人を選ぶ

稀にですが、壁打ちとして話を聞いてくれない人もいるでしょう。端的にいえば「頭ごなしに意見を言ってくる」という人です。これは壁打ち相手としては不適切なので避けましょう。

あなたは釣りが好きで、「釣り体験ツアー」を企画したいとします。これもビジネスとして自治体に売るとか、釣りメーカーとタイアップするとかそういう考えを持っていたとします。しかし、壁打ち相手が「釣りは流行らないよ」など、全く話を聞いてくれないというケースです。

話を聞いてくれるとは、あなたの意見や考えを聞いてくれる。それを踏まえた上で意見や考えを述べてくれる。そういう意味では、「YES、AND」という方ならOKです。しかし、相手の意見を「BUT」で聞かない、さえぎる人は辞めておいたほうがいいでしょう。

 

ここでひとつ疑問が出るとすれば「対象者ではないが、話を聞いてくれる人は壁打ち役に適切か?」というものです。

結論から言うと、これはありだと思います。ただ対象者ではないことに気をつければいいだけです。一方、「対象者であるが、話を聞いてくれない人」は、これはそもそもまずいので、違う人に当たった方が良いとなります。これは対象者に対するヒアリングなどにも関係してくるのでさらっと述べるにとどめますが、「釣り好き」であっても、「意見を聞いてくれない」とその意見は使いづらいということです。やや高度ですがその場合は「壁打ち」としての対話ではなく、「釣り好き」の意見を頂くなどテーマを変えた方が適切です。例えば釣り好きの行動や嗜好をサンプルとしてもらうなら、使えると思います。

 

 

どうやって壁打ち相手を見つけるか?

壁打ち相手は、大きく2つに分かれると考えています。

1つは関係性をある程度築けている身内、家族、友人、仕事の同僚などです。
もう1つは、経営コンサルタントや起業家、経営者などのビジネス視点を持つ人々で、いわゆる専門機関とか専門性が高い人だと考えてください。

当然、関係性がある友人で経営コンサルの人がいればそういう人に話をするのが早いでしょう。

ケースとして以下に示してみます。

 

1.家族(パートナー、配偶者、子どもなど)

身近な人ということで、これらの人に話すは有効だと考えています。
むしろ、日常的に話す人に対してアイデアを聞いてもらうことで、全く違う視点を得られることもあるし、話すことで整理されることが多いです。

これらは普段やられている方も多いと思いますが、自分のことをよく理解してくれるからこそ、良い相手になることもあるでしょう。

気をつけたいことを挙げるとすれば、その人が専門性やビジネス視点がなかったりすることです。そこを求めなければ素晴らしい相手となるでしょう。客観性を求めるだけなら十分なことも多いですが、専門性はやはり厳しいでしょう。

 

2.友人、親友、会社の同僚など

学生時の友人から社会人などの飲み友達、サークルなどの友達など幅広いでしょう。今ならSNSやネット友達みたいなものもありそうです。このような人々は少し関係性が遠くなるけども、自分の事をよく知っているわけですから話すことは有意義です。

ただし、家族の時と同様、こちらもビジネス視点があるとは限らず、応援をしてくれたとしても、流石に中身までは詰めて話せないことも多いと思います。

例えば、友人が小売業界で店長をしている場合は「こういう商品って売れてる?」みたいなことは気軽に聞けますよね。さらに「こういうビジネスを考えているのだけど」というときに、詰めて深堀りできるかは相手次第だということです。

 

私の場合は「こんなアイデア考えたけど、どう思う?」という感じでカジュアルに聞いていることが多いです。ネットであればコミュニケーションツールやSNSなども豊富なのでDMやグループで個別に聞く感じですね。

 

3.経営コンサルタント、起業家、経営者など

この三者は厳密には立場が異なりますが、ビジネスの専門性が高いという人として並べてあります。

理想は、このような友人や仲間がいることですが、なかなか難しいのも現状でしょう。

その場合、関係性がないので仕事として依頼を行い、アドバイスを受けることになります。自治体などでは無料相談できる窓口があったりするので、そういうサービスを使ってもよいでしょう。

これらの相手の見つけ方は様々ですが、創業支援機関などに聞いてみてもいいですし、身近なところで友人の伝手を頼るなどでもいいでしょう。また、 起業セミナーなどでは起業家が講師をしていることが多いのでセミナーに参加して話しかけてみる、またそこに参加している人を捕まえて話すのもありですね。

私もやっていますが、スキルシェアサービスなどで壁打ち相手を探すのもありでしょう。

 

これらの専門家のメリットはビジネス視点でのアドバイスを受けられることや、相談者が見えていない点に対する指摘や気づきをもらえるいうことでしょう。

逆にデメリットは、相談者は立場的に経験値が低い場合が多いので、その専門家や起業家などのアドバイスが「絶対」になりがちなことです。自戒を込めて言いますが、「絶対」良いとか、「絶対」正しいような意見はありません。間違っていることもあります。

これは聞いた話ですが、ある教育ビジネスをやろうとしている方が相談機関で相談したところ、あまり話を理解してもらえず(説明の仕方もあるとは思いますが)、既にある補助金活用の話にしかならなかったということです。

当然ながら、専門家も様々な方がいるので、その目利きが求められます。最初からうまくいく「壁打ち」ばかりではないので、色々な人にしていって慣れていくしかないと考えています。

 

以上、関係性があればそこから攻めていき、専門性がそこになければ相談してみるというのが一つのやり方です。どこか一つでなく、誰か一人でなく、複数の人にぶつけてみて揉んでいきましょう。

あとひとつだけコツを言えば、形式的な壁打ちも素晴らしいですが、アイデアの一部を切り出して「これをどう思うか?」とポイントだけ聴いたり、一部だけ聴くのもありかもしれません。例えば、ビジネス全体の評価は友人には難しいので「このサービスあったらいる?」という感じでカジュアルに聴くものも壁打ちに含んでもいいというのが私の考え方です。

 

また壁打ち相手そのものを探すやり方ではないのですが、ビジネスプランコンテストに応募してその手応えをみたり、応募に向けて資料にまとめることで間接的な壁打ち(整理)にもなります。受賞しなくても、応募の過程でアドバイスをしてくれます。

私も一度目の創業時は自治体の商工会議所が運営していた「創業セミナー」に参加しました。「ビジネスプラン」として全くいけているものではなかったのですが(自習や勉強ができる私設図書館的なものでした)、ある種その場に参加してビジネスプランを出すことで、良くも悪くも自分の現在位置や考え方を明確にできた気がします。

 

 

(番外編)人への壁打ちでなく、AIとの壁打ちは有効か?

AIの利用普及が進んでいる中では避けられないテーマだと考えています。

端的にいえば、「AIでの壁打ち」も全然ありです。ただ、言語化できる範囲になりますが、「AI」と「人」は違うというところで、壁打ちの性質が異なります。

壁打ちというところで、人への壁打ちはおそらく以下にまとめられます。

 

AIでの壁打ちに期待すること

  • アイデアがまとまらないので整理したい
  • アイデアをブラッシュアップ、違う視点が欲しい
  • 専門的な意見が聴きたい

 

これらについて、人だとお金も時間もかかる、または相手を拘束することもあるので、聞きづらい点もある。そういう意味でAIを使うのはありです。

ここで問題は、

 

  • AIには音声入力やチャットで書き出して伝えても、読むのは相談者である自分である
  • AIのアイデアや視点は、あくまでAIが学習している社会や世間などの一般的なものに留まる傾向が強い(ハルシネーションなど幻覚によって違う視点を得られることもありえる)
  • AI自体の専門性は知識としてはあり得るが、導き出せるかは相談者のプロンプト技術に依る(どう指示を出すかで決まる)

というところになります。

つまり、AI側をどう活用できるかになってしまうわけです。自分でプロンプトを書き出せる時点で、整理されていることもあるでしょう。そうなるとあまり壁打ちの意味がありません。

 

また、AIのアウトプットが整理されているかどうかは、相談者が判断するしかありません。そういう意味では、AIの壁打ちは「AI」という他人でなく、AIという仮想自分との「自分壁打ち」に近い感覚です。相談者側が「判断」できるのであれば、そもそも一定のビジネスや事業、それこそ起業経験者や事業経験者となるはずです。だから、専門家である人に聞く優位性があるわけですね。

 

AIは専門家を超えられるか

AIによってアイデアが膨らむかは、私はやや疑問です。あり得るのは、AIとやりとりして、相談者が「そんな見方や視点がある」と気付けるケースに限ります。私も体験からそういえます。ただ、それは割と自分を客観視したり、状態を俯瞰したり、AIのアウトプットを冷静に見られるからでしょう。もっといえば、良いアイデアをAIに出させる方法は実はなくて、それは人がどういう視点を指示したり、またはやりとりで気づくかという程度です。「良いアイデア」という漠然としたものであれば出てこないと考えて良いでしょう。よって、「良いアイデア」を指示できている時点で、明示的になっているので気づきやすくなるということです。

少なくとも、AIにいくら「ビジネスや起業の専門家となってください」と指示をしても、それらのアウトプットが「専門家」である保証はないわけです。(当然これは、人にも同じことが言えます。その専門性を何で担保するか、ということですね)

だからといって、AIが使えないわけではありません。AI壁打ちをして練習するというのもいいでしょう。

 

最近、頂くご相談は、このAI壁打ちを踏まえた話が多いです。相談者はAIを使って壁打ちをしているが、なんか違うなという感想をもったというわけです。

例えば、AIが相談者に寄り添すぎて批判しづらい(批判してと言えばしてくれるのですが、物足りないかもしれません)、当然ながら人ではないので人の視点ではないことも多い。例えば「それいいね」と人が思うアイデアと、AIが「いいですね」と言っているのは全く意味が違うわけですね。

 

先に述べたように、AIのアイデアは学習したインターネットや平均値的なものになるので「無難」なアイデアとなります。その場合、相談者は「なんか見慣れたアイデアしかくれないから」、私のところへ依頼を頂く形となっています。

当然ながら、AIはいつでも使えるわけですから、大いに使ったほうがいいでしょう。ただし、人の壁打ちとはまた違うものだというのが私の考え方です。

 

まずはAIに壁打ちをしてみて、なんかうまくできないのであれば、人を相手に壁打ちしてみましょう。慣れないうちは、関係性がある話しやすい人がおすすめです。慣れてきたら、専門家など少しずつ対象を変えていけば良いと考えています。

 

まとめ

以上、2回に渡って壁打ちの有益性、壁打ちでの注意点、壁打ち相手の見つけ方について述べました。

壁打ち自体は人次第で変わります。相手も人間だからですね。それを楽しんで、どんどん壁打ちして、ビジネスアイデアをぶつけてみる。それはきっと楽しいことだと私は思っています。

あなたが抱えてたり考えているアイデアをまずは誰かに話してみませんか?良い壁打ちや相手を見つけるために、この記事が少しでもヒントになれば幸いです。


 

著者

大橋 弘宜(シゴトクリエイター)

愛知県名古屋市在住。フリーランスのビジネスクリエイター「シゴトクリエイター」として、ビジネスアイデアの創出やリサーチ、PR文などの執筆、壁打ち支援を行う。ビジネスアイデア採択実績は470件以上で、大手広告代理店のビジネスコンペ入賞経験あり。独自に開発した「違和感発想法」を軸に、思考の整理とアイデアの実現を後押ししている。

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