2023年06月21日
書評
【書評】餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?
起業・経営に役立つ知識
出版社:PHP研究所 著者:林 總(公認会計士、税理士、LEC会計大学院教授(管理会計事例)、日本原価計算学会会員) |
餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるのでしょうか。
この問いに答えるためには、餃子屋と高級フレンチの利益構造を知っておく必要があります。
では、どうすれば利益構造がわかるのか?そもそも利益構造とは何なのか?皆さん、ご存じですか。
あなたは、なぜ「会計」を学ぶのか
本書の「はじめに」には、次のように述べられています。
あなたは、なぜ「会計」を学ぶのでしょうか?
会社の業績を株主に報告するためでしょうか?それとも、経営を有効に行うためでしょうか?
私は、経営に役に立たない会計は、ほとんど意味を持たないと思います。
経営とは、「業務を執行する行為」のことです。つまり、経営者は会社の達成目標(ゴール)を定め、業績を把握し、会社内部で行われているさまざまな活動をコントロールする必要があります。
経営における会計の使命は、会社の活動を「可視化」することです。(1ページ)
(中略)
会計はビジネスにおける「経営情報」そのものですから、経営と一体で学ぶことが大切です。そこで、本書は経営の素人である主人公の由紀が、会計のプロである安曇教授の助けを得て、会計と経営を学んでいく、という物語形式をとりました。(3ページ)
つまり「会社の活動を、業務の執行に役立つ形で可視化する術を会得してもらうこと」が本書の目的です。
会社の活動を、業務の執行に役立つ形で可視化するとは?
では、この本を読んで、何ができるようになればいいのでしょう。そして「会社の活動を、業務の執行に役立つ形で可視化する」とはどういうことなのでしょうか。
これは、主人公である由紀が経営する洋服メーカーのバランススコアカードです。
このバランススコアカードのエッセンスが、各章に散りばめられています。
そのためバランススコアカードのことを物語形式で理解していくことができることが、本書の一番の魅力です。
では、餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるのか?
誤解を恐れずに言えば「自社のビジネスモデルに合った経営をブレずにやった方が儲かる」。これが問いの答えなのかもしれません。 言い換えると、「身の丈に合った経営を徹底した方が勝つ」ということなのでしょう。
これは次のように説明できます。
餃子屋と高級フレンチの利益構造を見てみましょう。(図2)
ここで、ポイントとなる用語の説明をしておきます。
固定費
わかりやすく「維持費」ということにします。店の建物やキッチンの設備を維持するための費用です。 餃子や1個作ろうが100個作ろうが、フレンチのコースを1人前提供しようが100人前提供しようが。これらの維持費は変動しません。これが固定費です。
限界利益率
限界利益とは、「売上から変動費(材料費)を引いた額」です。 平たくいうと、餃子1皿を売った時に発生する追加的利益のことです。 限界利益率は、「限界利益÷売上」で算出されます。 要は、図2の緑部分です。限界利益率が高いほど、緑部分の傾きが急になります。
損益分岐点
積み上げた限界利益と固定費が一致する点を指します。
限界利益>固定費であれば、利益が出ており、
限界利益<固定費であれば、損失が出ているといえます。
整理すると、図3のようになります。
高級フレンチの場合
- 限界利益率が高いので、フレンチ1皿が売れるごとに、追加的な利益がドンと増えます。
- しかし、高級な店構えが一級品の設備を維持しないといけないので、固定費が高くなります。
- そのため、損益分岐点を超えるまでに時間がかかるので、損失が生まれやすい。
ただ、損益分岐点を超えた後は、利益が増えやすいといえます。
餃子屋の場合
- 限界利益率が低いので、餃子1皿が売れても、得られる追加的な利益はフレンチよりも小さくなります。
- しかし、フレンチと異なり、店や使うお皿は古いままでも特に違和感はないので、固定費は低く抑えることができます。
- そのため、損益分岐点を超えやすいので、フレンチよりも損失が生まれにくい。
- その代わり、損益分岐点を超えた後の利益の上がり幅は、フレンチよりも小さくなります。
こういった整理ができます。 要は、フレンチにはフレンチに合った、餃子屋には餃子屋に合った経営スタイルがあるわけです。
餃子屋がフレンチの真似をしようと高級な店構えにしたり、食器をオシャレにしたりしても、固定費の回収が難しくなるだけです。 これだと、損失が生まれやすくなるわりに、損益分岐点を超えても、得られる利益はたかが知れています。これが、先ほどの「身の丈にあった経営をした方が勝つ」とした理由です。
しかし実態はそう単純ではありません。
図1のバランススコアカードを思い出してください。
そう、ここで述べてきた内容は、あくまで図4のオレンジ部分にすぎません。
バランススコアカードを見ると分かるように、本来この問いに答えを出すためには、顧客の視点、業務の視点、学習の視点まで深掘って議論すべきなのです。
本書を読めば、バランススコアカードのエッセンスを、全体観を持って理解することができます。