2026年02月23日
DX
【事例インタビュー】「ツール導入」の先にある「経営の変革」へ。DXで描く、建設業の生き残り戦略~株式会社王子工業の挑戦~
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まちのインフラを支えるプラントメンテナンス企業、株式会社王子工業。 熟練の職人技術が現場を支える、「人の力」が主役の業界において、同社はいち早くDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいます。しかし、その道のりは決して平坦ではありませんでした。
「コスト削減圧力への対抗」や「高齢社員のキャリア転換」を見据えた経営戦略としてのDX。代表の平倉浩さんは、自社のDXの進捗度合いを「まだ20〜30%」と厳しく自己評価します。 「魔法の杖」ではない、試行錯誤しながら進む中小企業DXのリアルな歩みを、平倉さんに伺いました。
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まずは「連絡網」と「会議」から。王子工業の現在のDX
本日はよろしくお願いします。DXの具体的なストーリーを伺う前に、まずは現在、王子工業様でどのようなデジタルツールを導入・活用されているのか教えていただけますか?
はい。まず業務全般の基盤として使っているのが、業務アプリ作成クラウドサービスの「kintone(キントーン)」です。以前はLINEやメールで行っていた社内の連絡網をすべてkintoneに移行し、情報の集約を行いました。今は、私のスケジュール共有や顧客管理、見積作成などのアプリを作成して運用しています。
現場でのコミュニケーションや事務作業には、どのような変化がありましたか?
現場が分散しているため、会議にはWEB会議システムの「Zoom」を活用しています。以前は全員が集まるのが大変でしたが、土曜日に開催する会議などでも移動の負担を減らすことができました。 また、会議の議事録作成にはICレコーダーと「AI要約ツール」を使っています。音声を自動でテキスト化・要約してくれるので、事務負担が劇的に減りましたし、「言った言わない」のトラブル防止にも役立っています。

勤怠管理などもデジタル化されているのでしょうか?
そうですね。勤怠管理にはクラウドシステム(OBCなど)を導入しています。アルコールチェック義務化への対応や、日報入力などもスマートフォンやOneDriveを活用して、現場から直接行える環境を整えています。
現場作業が中心の建設・メンテナンス業界ですが、なぜこれほど積極的にDXに踏み切ったのでしょうか?
一番の理由は「企業の生き残り戦略」です。 私たちは発電プラントや焼却施設などのメンテナンスを行っていますが、主要顧客からのコスト削減要求は年々強まっています。これに応えるためには、業務を効率化してコストを下げないと、事業の継続が難しくなる可能性があるという強い危機感がありました。
また、業界全体として「人材不足」も深刻です。新しい人が入ってこない中で、今いる社員が効率よく働ける環境を作らなければなりません。 私自身、昔からパソコンが好きで、Windows以前のDOS時代からコマンド入力をしたり、エクセルでマクロを組んだりして業務を楽にする工夫をしてきました。しかし、社長一人だけが効率化しても会社は変わりません。「自分たちで変わらなければ」という思いで、組織的なDXへの舵を切りました。
「社長の孤独な先行」からの脱却。社員とのスキルギャップ
当初からスムーズに進みましたか?
いいえ、最初は試行錯誤が続きました。 kintoneを導入して、私がトップダウンで「これを使って」とスケジュール管理や顧客管理のアプリを作って渡したのですが、現場にはなかなか浸透しませんでした。
現場への導入で、どのような壁がありましたか?
意外だったのは「デジタル・ディバイド(情報格差)」の壁です。今の若手社員はスマホやタブレットの操作は得意なのですが、学校教育の影響か、キーボードを使ったPC入力やExcel操作は未経験という社員も多かったのです。 現場ではまだ「電卓」の文化が根強いですから、いきなりパソコン作業と言われてもアレルギー反応が出てしまうんですね。
また、運用面では「二重入力」の手間が大きな問題でした。 せっかくkintoneに入力しても、お客様指定の請求書や官公庁への提出書類を作るために、結局Excelに打ち直さなければなりませんでした。現場からすれば「手間が増えただけじゃないか」となります。これでは定着しません。「ツールを入れれば何とかなる」と思っていた自分たちの認識の甘さを痛感しました。

社員にも徐々に浸透してきているDX

打合せスペースのモニターの壁紙はDXの構想フローが
VSIDEでの学びと気づき。「アプリ連携」が突破口に
その状況をどのように打開したのでしょうか?
転機は2023年に、VSIDE(佐世保市産業支援センター)が主催する全6回の「kintone講座」を受講したことです。 そこで学んだのは、単体のアプリを作るだけでなく、アプリ同士を「連携」させることの重要性でした。
それまでは個別のアプリがバラバラに存在していましたが、見積もりから請求までを一気通貫でつなげたり、外部の帳票出力ツールと連携させたりすることで、課題だった「二重入力」をなくせる可能性が見えてきました。 また、「kintone café」のようなコミュニティに参加して他社の事例を知り、同じ悩みを持つ仲間ができたことも大きかったですね。独学では限界があった視野が一気に開けました。
講座やコミュニティでの学びが、具体的な成果につながり始めたのですね。
はい。先ほどお話しした連絡網の統一や会議の効率化といった小さな成功体験を積み重ねることで、少しずつ「デジタルを使うと楽になる」という感覚が社内に浸透しつつあります。
目指すは「経営数値の見える化」と「長く働ける会社」
今後の目標について教えてください。
最終的にはkintoneで作成したさまざまなアプリを統合したダッシュボードを作りたいと考えています。 見積もり、発注、出来高、請求といった会社の動きを一枚の画面で見えるようにする構想です。 これは単に管理するためではありません。売上やコストといった「数字」を経営者だけのものにせず、社員全員が見られるようにしたいのです。
社員一人ひとりが「今、会社はどういう状況か」「どうすれば利益が出るか」を理解し、主体的に提案できる組織にする。いわば「全員参加型の経営(経営数値の見える化)」を目指しています。
それは人材戦略とも関わっているのでしょうか?
その通りです。特に重要なのが、高齢社員の活用です。 現場作業が体力的に厳しくなった熟練社員が、デジタルツールを使ってバックオフィス業務を担えるようになれば、長く働き続けられます。DXは若手のためだけでなく、年齢を問わず長く安心して働ける環境を整えるための手段でもあるのです。
現在は、社長がトップダウンで決めるのではなく、社員主導で「どうすれば使いやすいか」を話し合うプロジェクトチームも動き出しました。私はあくまでアドバイザーに徹し、現場からの改善提案を待つ体制へとシフトしています。
DXを検討中の中小企業経営者へ。「まずは相談から」
最後に、これからDXを検討する経営者へアドバイスをお願いします。
まずは「何がしたいか」という目的を先に考えることかと思います。ツールありきではなく、「この課題を解決したい」という思いが先にあって、その手段としてデジタルがあるべきです。
そして、一人で悩まずに相談するとよいでしょう。私自身、VSIDEの講座や専門家のアドバイスを受けることで、具体的な解決策にたどり着けました。 私たちのDXも自己評価ではまだ20〜30%の段階ですが、AIなどの技術は日進月歩です。今取り組まないと本当においていかれます。「食わず嫌い」をせずに、まずは触れてみる、相談してみることから始めてみてはいかがでしょうか。

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