2025年02月27日

技術活用

地方製造業の自社技術を活用した製品開発①〜現状・課題と活用法〜

起業・経営に役立つ知識

 

地方製造業の経営者や技術者のなかには、自社技術の活用方法にお悩みの方もいるのではないでしょうか。大手・中堅メーカーへの収益依存からの脱却は、地域製造業が生き残っていくうえで重要な課題の一つです。

本記事では、地方製造業の一社依存脱却に向けた自社技術の活用方法や成功事例について解説します。一社依存脱却の方法がわからずに悩んでいる方は、本記事を参考にしてください。

 

 

地方製造業の現状と課題

地方における製造業の多くは、大手・中堅メーカーからの製造委託を受ける下請け企業です。下請け企業は委託元のメーカーからの業務に依存しているケースが多く、親会社からの委託が途絶えると収益が一気に悪化する恐れがあります。

リスクヘッジの観点から、地方製造業は一社依存からの脱却が必要でしょう。一社依存からの脱却の手段としては、取引先の新規開拓や競争力の高い自社製品の開発が挙げられます。自社技術を活用した製品開発の方法を理解し、一社依存からの脱却を目指してください。

 

地方製造業による自社技術の活用方法

地方製造業による自社技術の活用方法としては、主に以下の3つがあります。

 

  • 水平展開(新規事業への技術応用)
  • 垂直展開(製造プロセスの内製化)
  •  特許活用

 

自社の独自技術を有効に活用することで、他社との差別化を図った製品が開発できるでしょう。それぞれのアプローチの特性と注意点について、詳しく解説します。

 

水平展開

水平展開とは、自社技術を他の製品や新たな事業に応用していくことです。例えば、半導体事業を展開する企業が、自社のレーザー微細加工技術を活かして自動車用部品や医療機器などを開発するケースが該当します。

地方製造業は自社技術を水平展開することで、事業の幅を広げられるでしょう。新たな市場への参入は、一社依存を脱却できるだけでなく、事業面でのリスクヘッジにもつながります。

ただし、自社事業とは全く異なる市場への参入は、容易ではありません。知識やノウハウはもちろんのこと、業界ルールの把握や品質管理体制の更新などが必要なケースもあります。新規事業への水平展開を検討する場合は、参入市場に精通している人材を確保することも大切です。

 

垂直展開

水平展開が自社技術を活用して新たな事業などへ参入するのに対して、垂直展開は既存製品に関する強みを深めていくことで価値を高める戦略のことです。例えば、製品の製造のみを担当していた会社が、企画や販売といった工程も自社で行えるようにすることを指します。

自社技術の垂直展開を行うことで、製品のコスト削減や顧客ニーズへの迅速な対応が可能となるでしょう。

ただし、既存の内容以外の工程にまで事業を展開することにはリスクがあります。垂直展開に失敗した場合、製品のコスト増加に繋がる可能性もあるため、十分に市場ニーズやリスク分析を行なったうえで進めることが重要です。

 

特許活用

特許活用とは、自社の独自技術に関する特許内容を他社に提供することで、ライセンス収入などを得る方法です。

特許は、新規性や進歩性のある技術に対して国が独占的な権利を付与する制度です。特許権の効力は出願してから20年間であり、その期間中には他社は特許権が取得された技術を使用できません。

他社が特許技術を使用するためには、出願人である会社の許諾が必要です。出願人は特許技術の使用を許諾する代わりに、対価としてライセンス収入を求められるというわけです。

ただし、他社に特許権の使用を認める際には、ライセンス料の計算方法や支払い条件、特許技術の改良発明の取り扱い、実施地域などを詳細に定めた契約が必要になります。契約内容に不備があった場合、将来的なトラブルにつながる恐れがあるため、注意してください。

 

 

地方製造業が自社技術で開発した製品事例

地方製造業が、自社技術を活かして開発した具体的な製品事例を4つ紹介します。いずれも独自の技術の製品応用に成功した事例であり、地方製造業のリスクヘッジに大きく貢献しています。具体的な成功事例を把握することで、自社における製品開発のアイデア出しの参考になるでしょう。

 

 

高木特殊工業株式会社のPTFEめっき技術

高木特殊工業株式会社(https://takagitokusyu.com

 

地方製造業が自社技術を活用した事例の一つとして、高木特殊工業株式会社のPTFEめっき技術があります。

PTFEとは、ポリテトラフルオロエチレンの略称であり、フッ素樹脂の一種です。高木特殊工業は、PTFEの摩擦係数の低さに着目し、耐食性の高い無電解ニッケルめっきにPTFEを複合させることで潤滑性や耐摩耗性の大幅向上に成功しました。

PTFE複合めっき技術の最初の応用先は、自動車部品です。一方、汎用性の高い特性を持つ技術であったことから、ボルトのネジ部のような工業部品への水平展開も行なっています。

ネジ部への応用は、Webサイトからの問い合わせをきっかけに着手しはじめたとのことです。ネジ部にPTFE複合めっきを施すことで、ナットの滑りが良くなり、かじり(溶着)の低減を達成しました。

以上のように、独自の特性を持つ技術を保有していれば、新たな市場に参入できる可能性があります。

 

 

デジタルカラー塗装印刷(株式会社グリムファクトリー)

グリムファクトリー公式サイト(https://grimfactory.co.jp

 

株式会社グリムファクトリーのデジタルカラー塗装印刷も、自社技術を活用した製品開発事例の一つです。

デジタルカラー印刷とは、紫外線の照射によりインクを瞬時に硬化させるインクジェット技術です。従来技術では不可能であった金属板表面への印刷を可能とした点に特徴があります。

グリムファクトリーは、デジタルカラー印刷技術の応用先をクラウドソーシングを利用してアイデアを募集し、さまざまな用途に展開しています。応用先の例は、以下のとおりです。

  • Tシャツやジャケットなどの衣類
  • 衣類のボタン
  • 屋外の看板や標識

デジタルカラー印刷技術の「さまざまな材料に対して強固にプリントできる」特徴を活かして、種々の製品開発に貢献しています。

 

 

パック・ミズタニ株式会社

パック・ミズタニ株式会社(https://www.p-mizutani.com

 

自社技術の垂直展開の事例として、パック・ミズタニ株式会社のバリューチェーン拡大を紹介します。

パック・ミズタニ株式会社は、もともと自動車部品などを運ぶ段ボールの製造を請け負うメーカーでした。しかし、依頼元の海外進出や内製化といった市場変化をきっかけに、製造だけでなく物流支援サービスへ事業を拡大させています。

事業の垂直展開により、パック・ミズタニは顧客のニーズに柔軟に対応できるようになっただけでなく、市場での競争力強化も実現しています。自社技術の垂直展開をご検討の会社は、パック・ミズタニの事例が参考になるでしょう。

 

 

株式会社トライテック

株式会社トライテック(https://www.trytec-japan.com

 

株式会社トライテックの水平展開の事例についても紹介します。

株式会社トライテックは、製鉄や土木関連などの部品を製造するメーカーです。会社の収益の多くが製鉄部品の売上で成り立っていましたが、新型コロナウィルスの流行に伴う需要減少により経営悪化に陥っていました。

一方、トライテックは上記背景に危機感を持ち、大学医学部の教授からのヒントをきっかけに、製鉄事業で培った技術を活かして医療機器産業への参入に着手しています。医療用器具の開発および量産工場の設立は完了しており、水平展開に成功した事例といえるでしょう。

市場の参入障壁が高いといわれる医療産業であっても、高い技術力を持っていれば事業展開できる可能性があります。

 

 

まとめ

地方製造業にとって、自社技術を活用した製品開発および事業拡大は、大手・中堅メーカーからの一社依存脱却の重要な手段です。自社技術の水平展開・垂直展開・特許活用を行うことで、リスクヘッジを達成できるでしょう。

上記の成功事例を参考に、自社の独自技術の活用方法を検討してください。