2022年10月11日

知財

初心者のための「知財入門」

起業・経営に役立つ知識

 

 

“知財は大事だと聞いたけど、何だかとっつきにくそう…”

“ウチは大企業じゃないんだし、知財なんて関係ないかな…”

“知財は他社を攻撃するための権利ですよね? ウチはそんな権利は必要ないかな…”

なんて思っていませんか?

業種を問わず事業活動と知財は意外と無関係ではありません。まずは読んでみてください。

 

著者紹介

坪内 寛(UniBridge 知財事務所 代表 / 弁理士)

https://www.unibridge-ip.com

福岡市在住。「経営に役立つ知的財産マネジメント」「保有する知的財産から活用する知的財産へ」「産学連携を身近に」をキーワードに、知財と産学連携の専門家としてサービスを提供。スタートアップの支援も得意としている。

  • 元・九州大学 産学官連携本部 技術移転グループ長 / 知財グループ長
  • RTTP [国際認定 技術移転プロフェッショナル]
  • JPAA 知財経営コンサルタント
  • AIPE 知的財産アナリスト(特許)
  • 福岡市研究開発型スタートアップ成長支援補助金 認定事業審査会 委員 ほか

 

 

 

■ そもそも「知財」って何?

■「知財権」の活用

■「知財」の活用

■ 知財について相談するには?

 

 

 

■そもそも「知財」って何?

“知財」とは何ですか?”と質問されたら、どう答えますか?

「知財」「知財権」「知的資産」…言葉を聞いたことはあっても、違いを説明できる人はそう多くないでしょう。“わかっているようで、よくわからない”…「知財」とはそんな存在ではないでしょうか?

 

知的財産基本法で「知的財産(以下「知財」)」と「知的財産権(以下「知財権」)」が定義されています。「知財」は“事業活動に有用な技術上又は営業上の情報”、「知財権」は“知財に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利”であるとされており、以下のように例示されています(詳細は知的財産基本法第2条第1項及び第2項をご覧ください)。

 

<知財>

  • 人間の創造的活動により生み出されるもの(発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物、等)
  • 商標、商号
  • 営業秘密  等

 

<知財権>

  • 特許権、実用新案権、意匠権、商標権
  • 育成者権、著作権  等

 

「知的資産」「知財」「知財権」の関係は図1のとおりです。

「知財権」は「知財」に、「知財」は「知的資産」に、それぞれ含まれる概念であることがわかります。知的資産経営の重要性への認識が近年高まりつつありますが、その知的資産経営を実現するための核となる要素が「知財」や「知財権」です。「知的資産」を企業の【強み】と考えれば、「知財」は『財産的価値のある【強み】』、「知財権」は権利化された『財産的価値のある【強み】』といえます。

 

「特許権」「商標権」という言葉を聞いたことがあるでしょう。「知財」といえば「特許権」や「商標権」をイメージするかもしれませんが、これらは「知財」の一部である「知財権」の一種に過ぎないことが図1からわかります。“うちの会社は「知財」とは無関係”と考えがちですが、「知財権」だけでなくブランド・営業秘密・ノウハウ等を含む「知財」まで視野を広げてみましょう。“本当に「知財」と無関係と言えるのか?”と改めて考えると、そうとは言い切れないのではないでしょうか?

 

 

【図1】「知的資産」「知財」「知財権」の関係

(経済産業省HPから引用)

https://www.meti.go.jp/policy/intellectual_assets/teigi.html

 


 

■「知財権」の活用

「知財権」には特許権や商標権の他にも実用新案権、意匠権、著作権等があります。

特許権と実用新案権は技術の保護、意匠権はデザインの保護、商標権はブランドの保護、著作権は表現の保護、を目的とした権利です(図2、図3参照)。権利によって保護する対象や権利の存続期間等が異なるものの、いずれの権利も「独占排他性」がある点は共通しています。

 

【図2】知財権の比較

 

 

【図3】知財権の具体例

 

 

「知財権」の活用方法は様々ですが、主に以下のようなものがあります。

 

<権利行使>

知財権を侵害する者に対して、権利を行使することができます。知財権で保護されている技術やデザイン等を独占し、他人を排除することができますので、市場における競争優位性の確保・維持に繋がります。

 

<ライセンス>

知財権をライセンスすることによって、第三者に利活用させることもできます。特定の者に独占的なライセンスを付与したり、複数の者に非独占的なライセンスを付与したりすることで、権利を有効に利活用できるとともに、ライセンス料等の経済的利益を得ることもできます。

なお、知財権が他社との共有の場合(=知財権の権利者の名義が自社のみでなく、他社との共同名義となっている場合)、他の共有者の同意を得なければ第三者にライセンスできない点は要注意です(※1)

他社から知財権のライセンスを受けることにより、費用と時間を節減しつつ新技術の開発をすることもできます。他社がどんな知財権を保有しているかを知りたいときには、まずは無料の検索サイト(※2)を活用するとよいでしょう。

 

<強みのアピール>

独占排他性のある知財権を保有していることは、強みを有している証でもあります。特許公報等には特許権等の内容と保有者が記載されていますので、誰がどんな知財権を保有しているかを公的な文書で確認できます。

投資家による投資判断や事業売却時の事業価値評価等において知財権が評価対象とされる場合、強みをアピールする根拠にもなります。

 

ここまで、知財権の活用方法について紹介してきましたが、実際に自社で知財権の活用を進める場合には、

 

  • 知財権が従業員個人ではなく会社に帰属するよう職務発明規程を作成する
  • 他社や大学等と共同開発する場合に、知財権の対象となる開発成果の取扱いで自社にとって不利にならない契約を締結する
  • 自社の事業活動が他社の知財権の侵害とならないかを事前に調査する

 

等、事前に社内環境を整備しておくことが必要です。

 

また、自社開発した技術について新規性や進歩性の欠如を理由に特許権の取得ができなくなる事態を避けるために、展示会への出展や論文での公表を適切に管理する必要もあります。

社内環境の整備は後回しになりがちですし、会社の規模や人員等の状況によってはできることとできないことがあるでしょう。置かれている状況は様々ですが、優先度を付けて、やれることから確実にやっていくことが大切です。

 


 

■「知財」の活用

「知財」は『財産的価値のある【強み】』、「知財権」は権利化された『財産的価値のある【強み】』であると述べました。権利化するのが難しい場合や権利化することでメリットよりデメリットが相対的に大きくなる場合は、権利化せずに「知財」を活用することもあります。

 

知財権は法律で権利の存続期間が定められています。例えば特許権の存続期間は特許出願から20年後に終了します。権利の存続期間が満了したり、他の理由で満了前に権利が消滅したりすれば、それまで権利で保護されていた技術等を誰でも使えるようになります。

また、特許出願をすると1年6ヶ月経過後に出願の内容が公開され(これを出願公開といいます)、誰でも閲覧できる状態になります(図4参照)。特許権が侵害されていることを発見できれば権利行使できますが、発見が難しいケースでは他人による模倣を排除できず競争優位性の確保・維持ができません。

 

 

【図4】特許の出願から消滅までの流れ

 

 

一方、営業秘密やノウハウは、適切に管理して外部への漏洩を防止すれば無期限に活用することができます。ノウハウの活用に関する例としてコカ・コーラの製法は有名です。コカ・コーラの製法は特許権による保護ではなくノウハウとして秘匿されおり、長年に亘る競争優位性の根幹をなしています。

 

営業秘密やノウハウを活用するために最初にやるべきこと、それは営業秘密等の「可視化」です。営業秘密等の知財は目に見えない資産ですから、まずは営業秘密等を図や文章で目に見える状態にします。可視化により秘匿すべき強みが明確になり、強みの管理・活用がしやすくなります。

例えば、ノウハウを可視化すれば社内で共有して品質や生産性の向上につなげることができますし、営業秘密を可視化して適切に管理すれば漏洩防止を図ることができます。

 

仮に自社の営業秘密が漏洩した場合は、不正競争防止法による保護が受けられることがあります。保護を受けるためには3つの要件(秘密管理性・有用性・非公知性)に留意する必要があります(図5参照)。自社の情報が3つの要件のうち1つでも満たしていない場合、その情報は不正競争防止法における営業秘密とは認められず、漏洩したとしても保護が受けられないからです。(詳細は経済産業省のホームページ等をご覧ください(※3))。

 

 

【図5】営業秘密の3要件

 


 

 

■知財について相談するには?

“うちの会社も知財と無関係ではなさそうだ”と感じていただけましたでしょうか?

 

知財を可視化したり、知財権として権利取得したりする場合、知財の専門家である弁理士の力を借りることはメリットがあります。信頼できる弁理士(※4)に相談してみるとよいでしょう。弁理士を探す場合は弁理士の検索サイト(※5)が役立ちます。

 

または、知財活用を支援する公的機関である知財総合支援窓口(※6)にまずは相談してみるのもよいでしょう。VSIDE(ビサイド:旧佐世保市産業支援センター)(※7)でも知財に関する相談に乗ってもらえます。是非、ご活用ください。

 


 

(※1)

特許法第73条第3項で「特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができない。」と規定されています。A社・B社・C社で共同開発して3社で特許権を取得した場合、A社がX社にライセンスしたいときにはB社とC社の同意が必要です。仮にB社が同意したとしてもC社が同意しない場合にはライセンスできません。実用新案権、意匠権、商標権でも同様です。

 

(※2)

無料の検索サイトとして「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」があります。検索にはコツと慣れが必要ですが、トップページからマニュアルのダウンロードができますので検索にチャレンジしてみてください。

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

 

(※3)

営業秘密の管理等について、「営業秘密管理指針」「秘密情報の保護ハンドブック」等の資料が経済産業省のホームページで公開されています。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/trade-secret.html

 

(※4)

弁理士は、知財に関する専門家です。

「弁理士は、知的財産に関する専門家として知的財産権の適正な保護及び利用の促進その他の知的財産に係る制度の適正な運用に寄与し、もって経済及び産業の発展に資することを使命とする。(弁理士法第1条)」

 

(※5)

日本弁理士会が検索サイト「弁理士ナビ」を公開しています。

https://www.benrishi-navi.com/

 

(※6)

各都道府県に「知財総合支援窓口」が設置されています。

https://chizai-portal.inpit.go.jp/

 

(※7)

VSIDE(ビサイド:旧佐世保市産業支援センター)

https://vside.jp