2023年02月13日
製造業
「1人で製造業」は無理?起業をあきらめないための処方箋【起業ノウハウ】
起業・経営に役立つ知識
一般的に製造業と聞くと、工場を稼働させて、複数人のスタッフに働いてもらって、たくさんの製品を作り市場に送り出すイメージを持つ人が多いかもしれません。
しかし最近では、いわゆる「ひとりメーカー」のような、企業に属することなく個人でモノづくりを行う人も増えてきています。
人件費や設備の問題をクリアして、自分の好きなモノを作って生活することをあきらめることなく、自力でモノを売るのに必要なことすべてを担当して夢をかなえた例は少なくありません。
今回は、1人で製造業として起業することを想定している人向けに、夢を実現するためのプロセスの一例をご紹介します。
商品の企画から流通までの流れを理解する
どんな商品であっても、まずは自分の頭の中にあるアイデアを形にする(企画)ところからスタートします。
次は、その企画を実現できるデザインを形にして設計し、商品として問題がないかどうか検証するため試作品を製造し、ブラッシュアップを続けていきます。
商品として世に出せるものができ、量産体制が整ったら、今度は販路を開拓します。
情報発信やアフターサービスに関しても体制を整え、安定して商品販売で利益を出すところまでが一連の流れになります。
これは、ひとりメーカーであろうと大企業であろうと、基本的には変わらないプロセスです。
1人で製造業に携わることを考える場合、まずは一般的な企画から流通までの流れを理解して、それを1人で進められる形にアレンジしていきます。
企画の「タネ」をメモしていく
よほどの天才でない限り、アイデアが雨のように降り注ぐようなことはありません。
発明は多くの場合、世の中の製品に何らかの不満を感じた人が、その不満を解決する技術とのマッチングを成立させたときに生まれます。
ひとりメーカーとしてムーブメントを起こした立役者の一人である、ビーサイズ株式会社の八木啓太代表は、次の2つのことをストックするよう心掛けているそうです。
- 生活の中で不満に感じること(不満ストック)
- 新技術や優れた技術(技術ストック)
八木代表は、不満ストックと技術ストックの2つについて、それぞれを「繋げたら解決できる」という線を引くことが、アイデア・デザインであると話しています。
その上で、デザインによる世の中の美化、テクノロジーによる社会の効率化、社会貢献の3点を満たしているかどうかを、製品化のゴーサインを出す基準にしているとのこと。
企画の出し方について、かなり詳細な基準があることに驚いた人もいるかもしれません。しかし、プロトタイプを作る中でトライアンドエラーの回数を減らすためには、最初が肝心なのです。
設計・製造にかかるコストを抑える
企画が形になってきたら、設計技術をもとに試作品を作って検証を重ね、量産できる製品を作り上げる必要があります。
設計ツールを活用することで、設計作業は大幅に効率化できますが、大手メーカーが使う高額なものにこだわらず、個人が無料または安価で手に入れられるツールを探しましょう。
自分の技術に不足がある点は、技術がパッケージ化された商品である「モジュール」や、ハードウェア(3D CADデータ等)やエレクトロニクス(基板上の部品配置、回路図)の設計、ソフトウェア等の情報を無償で公開している「オープンソースハードウェア」の活用が有用です。
ここまでのプロセスを進め、図面・データの作成が完了したら、プロトタイプの製造に移ります。
プロトタイプを作るにあたり、製造手順は以下の3つです。
- 汎用部品の調達
- オリジナル設計の部品製作
- 各部品の組み立て
部品調達や製作に関しては、部品購入サイト・小ロット対応の製造サービスなどを活用すれば、1個単位で試作ができるので、コストを抑えることができます。
検証できる環境整備と量産体制を構築する
プロトタイプを商品としてブラッシュアップするには、検証が必要です。
検証にあたっては、以下のような点を確認して、品質に問題がないかどうかチェックしなければなりません。
- 様々なシーンで活用できるか
- 基本性能は仕様の通りか
- 自然環境等に悪影響を及ぼすおそれはないか
- 耐久性や壊れたときの安全性に問題はないか など
大手メーカーの場合、大掛かりな設備を用意して、あえて過酷な条件で検証を行います。しかし、十分な検証に必要な環境を、個人で用意するのは難しいため、各地の産業技術センターでサポートを受けることをおすすめします。
検証試験が無事終わったら、量産・出荷体制の構築に向けて動かなければなりません
自社工場を持てない個人は、電子機器の製造受諾サービス「EMS(Electronics Manufacturing Service)」など、受諾生産サービスの活用を検討しましょう。
量産体制を整える上で重要なのは、製品が一定の性質を維持できるようにすることです。
そのためには、部品・製品の検査や輸送の方法、保管条件や組み立ての手順など、諸々のルールを作って共有・運用することが大切です。
資金の確保と販路開拓
予約販売など一部の例外を除いて、製品は販売する(代金をもらう)前に量産化しなければならないので、自己資金をいかにして確保するかが重要となります。
個人が資金を調達する方法が限られており、補助金は審査が通らなければ手に入りませんし、金融機関からの融資のハードルも決して低いものではありません。しかし、クラウドファンディングを使えば、試作品をWeb上で公開して将来性をプレゼンし、賛同者から資金を受け取ることができる可能性があります。
自前で資金を用意できるなら言うことはありませんが、やはり限界がありますから、資金調達の方法はいくつか検討しておきたいところです。
商品の販売に関しては、いきなり量販店の店頭に置いてもらうのは難しいので、オンラインショップを利用するのが基本戦略となるでしょう。
商品の保管・在庫管理・荷詰め・発送といった各種作業を請け負ってくれる「フルフィルメントサービス」を活用することも、1人で製造業を営む上では重要です。
宣伝で活用したいのがSNSで、拡散力の高いものを運用して、商品を知ってもらうことも大切です。
自力での効果的な運用が難しいなら、代行を依頼してもよいでしょう。
まとめ
1人で製造業に携わることは、多くの人にとってハードルが高いと感じられるかもしれません。
しかし、プロセス一つひとつを理解して、どこに注力すべきかイメージできていれば、実際のところまったく不可能な話ではありません。
機器開発以外には、文房具などを製造・販売するという選択肢も選べます。
これまで自分が培ってきたキャリア・技能を活かせるジャンルで、企画から販売までの流れを統括できる自信があるなら、ぜひチャレンジしてほしいと思います。