2024年08月19日

飲食店DX

人手不足ではない、人はもういない。 〜飲食店のDX化の未来〜

起業・経営に役立つ知識

 

飲食店を経営している方、もしくは新たに開業しようとする方にとって、これからの時代、DX化(デジタルトランスフォーメーション)は単なる選択肢ではなく、成功への必須条件です。創業時には資金が潤沢ではないため、DX化は後回しにしようと考える方も多いかもしれません。しかし、それは明らかに間違えた判断です。小さな店舗であっても、DX化を進めることを考えなければ、営業はおろか開業さえ難しい時代になってきています。

 

DX化の重要性

創業時だからこそ、お店のオペレーション全体の設計をデジタルツールありきで行うべきです。現代では、小さな店舗でも採用できるような手頃なデジタルツールが数多く存在します。これらを活用することで、効率的な運営と顧客満足度の向上を図ることができます。

 

DX化は、単にデジタル技術を導入するだけでなく、ビジネスモデルそのものを変革することを指し、新しい経営のカタチを作り上げることを意味します。

 

労働力不足の現実

日本全体が労働人口の減少している中でも、飲食業界は特に深刻な労働力不足に直面しています。外国人労働者の減少も続いており、2023年の有効求人倍率は1.28で、「飲食物調理の職業」に至っては2.38倍、「接客・給仕の職業」では2.48倍にも達しています。つまり、人手が足りないレベルの話ではなく、『人はすでにいない』といってもいいような状況なのです。

こうした状況に対処するためには、DX化を推進し、人手だけに依存しない経営スタイルを確立することが不可欠です。人手不足の影響を大きく受けずに、効率的かつ効果的に運営できる仕組みを構築することが、今後の飲食店経営において最も重要な課題となります。

 

コロナ禍がもたらした変化

コロナ禍は、飲食業界に大きな変化をもたらしました。健康志向の高まり、外食離れ、酒を飲まない風潮の拡大など、消費者の行動が変化しています。さらに、外食の回数が減り、単価が上がる傾向が見られます。このような変化に対応するためには、DX化による効率化と新しい価値の提供が必要です。

 

イートインだけでなく、ECやテイクアウト、デリバリーなど全方位に向けての販売を検討するべきであり、そのためには業務の一つ一つを最大限効率化する必要があります。

 

 

飲食店が目指すDX化のビジョン

DX化のゴールは、単なるデジタルツールの導入ではありません。経営の形、考え方を根本から変え、業務効率化やコスト削減を超えて、新しい価値を提供することにあります。
例えば、セルフオーダーシステムを導入することで、人員配置やシフトを最適化し、空いた時間で他の業務を行うなど、経営全体の効率を高めることができます。また、配膳ロボットやAI識別レジなどの最新技術を導入することで、従業員の負担を軽減し、サービスの質を向上させることができます。

 

DX化による具体的な効果

DX化による具体的な効果としては、以下の点が挙げられます。

 

  • 業務の効率化
    デジタルツールを活用することで、業務の自動化が進み、従業員の負担が軽減されます。
  • コスト削減
    効率的な運営により、人件費や運営コストの削減が可能です。
  • 顧客満足度の向上
    デジタル技術を活用することで、迅速かつ正確なサービス提供が可能になり、顧客満足度が向上します。
  • 新しい価値の提供
    デジタルツールを活用することで、顧客に新しい価値を提供することができます。例えば、顧客データを分析して個別対応を強化するなどです。現在は、データの分析からSNSの発信内容とクーポンの発行まで一元管理することも可能です。
  • スタッフ教育の充実
    動画や音声などのコンテンツでマニュアルを作成するなどして、スタッフの研修にかかる労力を最低限に抑え、かつ効率よく教育することができます。また、これまで必要だった熟練したスキルや勘といわれるような伝えづらいことも可視化することが最大の効率化につながります。

 

 

具体的なDX化の取り組み事例

タイムカード・POSレジ・キャッシュレス決済

タイムカードやPOSレジの導入は、基本的なDX化の第一歩です。キャッシュレス決済を導入することで、現金管理の手間を省き、会計業務の効率化を図ることができます。

例えば、セルフサービスの飲食店の場合、AI識別レジを導入することで、レジの対応時間を20秒から8秒に短縮し、ピークタイムの売上を倍増させることが可能です。またこのレジのスタッフの新人教育は10分の1の時間に削減できるような事例も数多くあります。

 

配膳ロボットの導入

配膳ロボットの導入は、スタッフの負担を軽減し、顧客満足度を高めることができ、接客業務の効率化に大きく貢献します。

昨今では、月7万円程度で導入できる配膳ロボットもあり、省スペースでも対応可能になってきており、その進化は目を見張るものがあります。また、ホールの床用の自動掃除ロボも販売台数を順調に伸ばしています。

 

オンライン予約・オーダーシステム

オンライン予約やオーダーシステムの導入は、顧客の利便性を向上させると同時に、店舗運営の効率化にも寄与します。これにより、顧客の待ち時間を短縮し、リピーターの増加を図ることができます。

 

Notionでの予実管理や顧客管理

データ分析を活用することで、顧客の行動やニーズを把握し、効果的なマーケティング戦略を立てることができます。

また、売上目標の設定や達成率など月の途中での施策変更などデータベースとコミュニケーションツールの双方を併せ持つNoton(※)によって、管理することは有効な打ち手になってきます。

 

(※)メモやタスク管理、Wiki、データベースなどさまざまな機能を一元的に使うことができる「オールインワン ワークスペース」アプリ。 Notionはカスタマイズ性に富んでおり、使い方によってはメモアプリにも、チームのプロジェクト管理ツールにもなる。

 

 

完全キャッシュレス化による実益検証

飲食店における完全キャッシュレス化とは、現金を一切使用せず、すべての支払いをデジタル決済手段で行うことを指します。

これは極端な施策かもしれませんが、効率化とコスト削減に大きな効果をもたらしており、実施する店舗も年々増えています。
以下に具体的な効果を箇条書きで示します。

 

  • お客様のお会計の際、現金決済では1件あたり30秒、キャッシュレス決済では15秒。1日300件の決済で、現金決済150分、キャッシュレス決済75分となり、1日75分の時間短縮
  • レジ金の計算、釣り銭の用意、銀行への入金などにかかる時間を削減。レジ金の違算が発生しない。1日1時間の現金管理業務が不要に
  • 会計処理の迅速化により、レジ待ち時間が短縮され、顧客のストレスを軽減
  • スタッフが他の重要な業務に集中できるようになる
  • 両替手数料の削減
  • 現金盗難や計算ミスのリスクを低減
  • 顧客にとって支払いが迅速かつ簡単になり、全体的なサービス体験が向上
  • 特に外国人観光客や若い世代の顧客に好評
  • キャッシュレス化によって顧客1人あたりの購入金額が増加する傾向
  • 支払いの利便性向上によりリピーターが増加

 

完全キャッシュレス化で20%以上の利益金額が増加するお店は少なくなく、加盟店手数料を支払っても十分に元は取れる可能性があり、必ず一度は検討するべきです。

 

DX化の進め方と注意点

DX化を成功させるためには、以下のステップが重要です。

 

  1. 現在のお店の問題点を洗い出す(既存店のみ)
  2. デジタルツールの置き換えポイントを抽出する
  3. ツールの組み合わせとトランスフォームをシミュレーションする
  4. 各パターンのコストパフォーマンスを検証する
  5. 実行する

 

特に重要なのは、資金の問題で一気にDX化できない場合、全体の計画を立ててから一部実施に移ることです。とりあえずといった考えで、部分的に導入するのではなく、全体のビジョンを明確にし、各ステップを着実に進めていくことが大切です。

 

DX化は避けられない未来

デジタルツールを導入する際、躊躇する理由として最初に挙げられるのは、デジタルで対応すると温かみがなくなる、お客様との関わりが減るといった心配です。
しかし、これはそれほど心配がいらないことであり、逆にデジタル化をすることにより接客へのゆとりが生まれ必要な顧客に対し、充分な対応をとることが可能になります。

 

これから数年で人手不足が深刻化する中、デジタルツールやAIを活用して効率的に運営することが、生き残りの鍵となります。今からすぐに行動を起こし、飲食店のDX化を確実に進め、労働力不足の課題を解決し、顧客満足度の向上を目指しましょう。

 

アルバイトの時給が1800円といった金額になるまで、それほど時間は残されていません。

 


 

著者プロフィール

太田とよしき

(株式会社パディーズ 代表取締役)

20歳より大手飲食チェーンにて店長職につき、エリアマネージャー、県内の統括責任者を経験。
その後、新規事業開発部への所配属となり、外食産業の新業態の開拓、商品開発、人材教育を担当した。
その後、海外の16都市にて飲食ビジネスを勉強したのち、恵比寿にて独立開業し、2年目に年商5000万を達成する。 多店舗展開しながら兼業として飲食店コンサルタントを開始。
現在は、企業のDX化や新規事業のコンサルタント業を専門としながら、地域に密着した学びの場であるパディーズラボを経営している。