2024年10月11日

法人化

個人事業主が法人化するメリット|検討すべきタイミングも解説

起業・経営に役立つ知識

 

個人に課される所得税は、所得が増えれば触れるほど税率が上がっていき、住民税と合わせると最大で利益の55%に税金がかかってしまうことになります。

利益が増えても個人事業主のままでいると、税制上不利になってしまうことが予想されるため、ある程度所得が増えた段階で法人化(法人成り)を選ぶ人も一定数存在しています。

個人事業主の法人化には、税金面以外にも複数のメリットが存在しますが、法人化に踏み切るタイミングは慎重に判断する必要があります。

この記事では、個人事業主の法人化について、具体的なメリットや検討すべきタイミングなどを解説します。

 

 

個人事業主の法人化とは

個人事業主の法人化とは、これまで営んできた事業につき、新たに株式会社・合同会社などの法人を設立して、そちらに事業を引き継ぐことをいいます。

法人化は、俗に「法人成り」と呼ばれることも多く、 節税対策や社会的信用の観点から早期の法人成りを目指す事業者も少なくありません。

 

個人事業主と法人の基本的な違い

個人事業主と法人の基本的な違いをあげると、主に次のような違いが見られます。

 

項目 個人事業主 法人
設立の流れ
  • 開業届を所轄の税務署に提出すれば開業できる
  • 税務署での手続きで費用等の支払いは不要
  • 公証役場にて定款の認証を受けなければならない(株式会社)
  • 登録免許税が発生する(株式会社15万円以上/合同会社6万円以上)
事業で得た所得にかかる主な税金の種類
  • 所得税
  • 累進課税制度が採用されており、所得が増えるほど税率が上がる
  • 法人税
  • 税率は原則「23.20%」となっているが、一定の条件を満たせば15%の税率が適用される
経費の解釈 個人事業主に「給与」の概念は適用されないため、経費として計上できる支出に制限がある 法人は代表者個人と別人格という解釈になり、役員に対する給与を人件費として計上できる

 

個人事業主の法人化にあたっては初期費用が発生するものの、ビジネスが軌道に乗って利益が大幅に減るような状況が想定されない場合、中長期的に見て法人の方が有利になる可能性があります。

 

 

個人事業主が法人化するメリット

個人事業主が法人化すると、次のようなメリットを享受できます。

 

節税対策の幅が広がる
  • 役員に対する給与を「役員報酬」や「役員給与」などの科目で計上可能
  • 役員報酬を受け取っている場合でも、給与所得控除の恩恵が受けられる
  • 保険契約者を法人名義にした場合、生命保険料を「支払保険料」として計上できる
有限責任となる
  • 法人は出資した金額に応じて責任を負う「有限責任」となり、万一事業をたたむことになっても、失うのは出資金に限られる

※ただし、オーナー社長は実質的に無限責任のケースがほとんど

決算期を好きに決められる
  • 個人事業主の確定申告の締切は3/15だが、法人は決算期を自由に決められるため、例えば6月や7月のような1年の中ごろを決算期にできる
  • 繁忙期と閑散期がある業界の場合、忙しい時期を避けて決算の準備ができるメリットがある
赤字を10年間繰り越せる
  • 個人事業主の赤字の繰越控除は3年間のため、単純計算で3倍以上の年数にわたり赤字を繰り越せる
  • 新型コロナ禍など、世界的かつ突発的な問題が発生して巨額の赤字を計上しても、翌期以降の黒字と長期にわたる相殺が可能
社会的信用を得やすい
  • 法人で事業を行うことにより、法人名義で銀行口座を作ったり融資を受けたりすることが可能になる
  • 法人名義であれば、第三者の保証人を用意することなく、事務所などを借りることもできる

 

このように、数多くのメリットが期待できる法人化ですが、法人を解散したい場合にも費用が発生するなどのデメリットもあります。

赤字であっても、法人住民税など一部税金の支払いが必要になるため、法人化を目指す場合は事前に収支のシミュレーションを行ってから判断しましょう。

 

 

 

 

個人事業主が法人化を検討すべきタイミング

個人事業主から法人化を目指す場合、できる限り利益が残る、事業者にとって負担が少ないタイミングを狙いたいところです。

以下、個人事業主が法人化を検討すべきタイミングについて解説します。

 

利益が500~600万円程度になるタイミング

個人事業主の利益(所得)が500~600万円ほどになると、所得税の税率は20%です。

これに対して、資本金1億円以下の法人の場合、年800万円以下の所得金額の部分については、法人税が15%となります。

所得がさらに増える見込みである場合、個人事業主のままだと税率が上がってしまうおそれがあるため、早めに法人化しておいた方が税負担を抑えられる可能性があります。

ただし、節税の有利・不利に関しては慎重な判断が必要になるため、税理士など専門家にアドバイスを求めることをおすすめします。

 

売上額が1,000万円を超えたタイミング

1年間の売上が1,000万円を超えた場合、課税事業者となり2年後から消費税を納付しなければなりません。

そこで、売上が1,000万円を超えた翌年に法人化すると、法人としての基準期間(納税義務があるかどうか判断するための期間)を一からスタートすることができ、結果的に消費税が最長2年間免除されるメリットが得られます。

主にBtoCの事業であれば、このタイミングを法人化の目安と考えてもよいでしょう。

しかし、BtoB向けの事業を営んでいるなど、インボイス登録が必要な事業者の場合は当てはまらないケースがあるため注意が必要です。

 

 

まとめ

個人事業主が法人化を検討する場合、法人化にあたり発生する初期費用や手続きの手間、税金の種類などを総合的に勘案して判断する必要があります。

単純に考えて、法人化に至るメリットが個人事業主であり続けるメリットを上回るのであれば、法人化を検討する価値は十分あります。

法人化を検討するタイミングの目安としては、利益500~600万円、または売上額1,000万円超えの状況が考えられますが、すべての個人事業主にとってベストなタイミングとは限りません。

実際に法人化の手続きを進める際は、税理士などプロの手によるシミュレーションを経た上で判断しましょう。