2023年02月27日

【初心者のためのマーケティング講座】STP分析

売上の”8割”を決める「STP」設計〜商品・サービスの設計書「STP」〜

起業・経営に役立つ知識

 

 

 

この記事の概要

東証プライム 上場の、日用品メーカー(特定分野でアジアNo,1)に勤務。現役でマーケティング部門の管理を担当しているヒロヴィンチです。

この記事では、「これからマーケティングをやってみる」というあなたに、実践編として、マーケティングの最重要工程である「STP設計」について、具体的にご説明します。

今回の記事は、このような方にオススメの内容になっています。

 

  • 3C分析を終え、いよいよ商品やサービスを検討したい
  • 商品やサービスをどんなコンセプトで作ったらいいか分からない
  • 商品やサービスに自信はあるのに、売れない

 

 


 

 

STPとは、製品・サービスの要となる「設計書」

STPとは、以下の要素の頭文字をとったものです。

 

  • Segment(セグメント)
  • Target(ターゲット)
  • Positioning(ポジショニング)

 
商品・サービスが売れるかどうかは、このSTPの出来の良さで8割が決定します!言い換えれば、マーケティングの最大の目的は、精度の高いSTPを設計し、売れる商品・サービスを創り上げることにあります。それほど重要なのがSTPです。

投資者や経営者に対して1ページで事業内容を説明せよ、と言われたら迷わずSTPを1枚で示し説明しましょう。
さて、第四回の記事は、この「STP」を取り扱います。この記事はすべてのマーケティング初心者に読んでほしい内容です。

 

STPの決定プロセス

STPは単純に各単語の頭文字をとっただけでなく、その順番にも意味があります。
筆者の記事で何度も登場していますが、改めてマーケティングの基本8ステップを掲載します。

 

Copyright©2022 ヒロヴィンチ

 

この図をご覧いただくと、前回の記事で紹介した「3C分析」の次に、「セグメンテーション」、「ターゲティング」、「ポジショニング」という順にステップが並んでいます。
上記の通り、大きな流れとしては、

 

  • 3C分析で環境変化を把握し、「機会」を見出す
  • セグメンテーションで「市場を分ける」
  • ターゲティングで「土俵(市場)を決めて狙う顧客を決める」
  • ポジショニングで「どんな立ち位置を確保し、顧客に買っていただくかを決める」

 

このように進行していきます。

それでは、「3C」分析を終えたと仮定して、順番に説明していきます。
その前に、3C分析であなたの「ビジネス機会」に気付きはあったでしょうか?まだ、ビジネス機会が見えていない、という場合は3C分析に戻ってください。機会の気づきが無いままSTPに突入するのは時期尚早です。
機会を見いだせたあなたは、早速STPの設計をしていきましょう!

 

 

セグメンテーション

まずは、セグメンテーションです。
セグメンテーションとは、市場を分けて小さな市場で1位を目指すことです。
事前に3C分析で機会を取り出せましたね、その機会を考慮して考えていきます。
セグメンテーションとは、「束ねる」という意味で、マーケティングにおいて、「似た者同士」をいくつかのグループに分ける作業のことを「セグメンテーション」と呼びます。
その出来上がった1つ1つの塊のことを「セグメント」と呼びます。
セグメンテーションは単体で考えると「どうも分かりにくい」というお声が多いです。そこで、私がマーケティングの教育をする際に使っている説明をお示しします。セグメンテーションは2つの言葉と一緒に考えるとスッと理解できます。
それは「マス(mass)」と、「オーダーメード」です。

※マス(Mass)とは、はっきりした区分けの無い、一般大衆、という意味
※マスメディア、マスコミは、「一般大衆に向けたもの」といった意味で「マス」が使われている

 

 

 

  • 左:マス(Mass)…顧客を分けない、売り手発想で市場を大きく捉える考え方
  • 中:セグメンテーション…「似た者同士」を束ねて、それを1つの市場として捉える考え方
  • 右:オーダーメード…1人1人に最適化し、1人1人を市場と捉える考え方

 

 

このように、セグメンテーションとは、「マス」と「オーダーメード」の中間である、と考えると分かりやすいのではないでしょうか。もっとわかりやすく表現するならば、「似たもの同士をまとめるグループ分け」と考えてください。
なぜ市場をわざわざ分けるのか。それは、セグメンテ―ションをすることで、コストと強い訴求のバランスがとれることです。
ビジネススーツカテゴリーを例に見てみましょう。

 

「マス」(左)を対象にすると、画一的な商品を大量に生産することになるので、コストは圧倒的に抑えられます。
一方で、特に目立った特徴も感じられず訴求力(欲しい!と思わせる力)に劣ります。
対局(右)にある「オーダーメード」は、”あなた専用”になるので、訴求力は”最強”です。
ただし、1人1人に合わせた商品になるので、原料費、人件費など莫大なコストがかかります。
そこで活躍するのが「セグメンテーション」。
一定の訴求力を保ちながら、コストもある程度抑えることができ、ビジネスとして成立しやすいのです。
この例でいうと、「スーツを着る顧客の着用目的」で市場を束ね上げ、「就活フレッシャーズ」という似たものどうしを1つの市場としてセグメンテーションしています。
ここで大切なのが、3C分析で導いた「機会」に応じてセグメンテーションすることです。
思い付きでグルーピングしても、良い結果は得られません。
例えば、3C分析で「スーツを骨格診断に合わせて選ぶ人が増えた」という機会が見えたら、セグメンテーションは「骨格別」に行うべきです。
また、「節電のためのWarm BizやCool Bizが顧客の仕事現場に浸透してきた」という機会が見えたら、セグメンテーションは「季節ごとのビジネススタイル」で行うべきです。
このように、見出した「機会」をもとに市場を細分化して束ねていきましょう。

 

 

小さな市場なら1位を目指せる!

セグメンテーションの本質敵な目的は、「小さな市場で1位を取ること」です。
市場を分けると、小さな市場で強い訴求力を発揮することができます。
巨大な市場で競合ひしめく中で戦っていては、あなたのビジネスは有象無象の中の1つに過ぎません。
一方で、細分化した市場の中ではオンリーワンの存在になれる可能性が極めて高くなります。
1位になれる市場を見つけ、1位の市場を複数積み重ねていくことが、結果大きな市場での存在感を発揮する近道となります。
具体的に、小さな市場で勝利を勝ち取った事例を見ていきましょう。

 

「髪の長さ」と「好みの質感」でセグメンテーションした”GATSBYムービングラバー”

いわずと知れた、ヘアーワックスです。
「髪の長さ」と「スタイリングの好み」でセグメンテーションし、それぞれの顧客に支持を受けて有名ブランドとなりました。豊富なラインナップ展開をすることで高いシェアを誇っています。
「どんな髪型でもこなす万能ワックス!」という商品か、「マットな質感でハードにキープ」だったり、「ウェットな質感の大人ロングヘアへ」という商品、果たしてどちらが「欲しい!」と思わせる力があるでしょうか?

 

 

家の掃除のうち、「布団の掃除」を切り取ってセグメンテーションした”レイコップ”

続いては空前の大ヒットを見せたレイコップです。
レイコップは「家を掃除したい」というニーズの中の一部、「布団を綺麗にしたい」という掃除したい「場所」を束ねてセグメンテーションしました。
布団に特化した掃除機を発売し、爆発的ヒットを記録しました。

 

 

「贈答用途」でセグメンテーションした”AGFコーヒーギフト”

「コーヒーギフトはAGF♪」のCMを覚えている方も多いですよね。
当時、インスタントコーヒー市場は「ネスカフェ(ネスレ社)」一強状態でした。
そこでAGF(現在は味の素AGF)は、「コーヒーを買う用途」を市場として束ね、「贈答用途」をピンポイントで狙い、贈りもののコーヒーとして市場を巻き返します。
これによりAGFはインスタントコーヒー市場での立場を確立しました。
現在でもギフトコーヒーとして様々なラインナップを取りそろえ、贈答用コーヒーセグメントの中では圧倒的強さを誇ります。

 

 

「朝に飲む」シチュエーションをセグメンテーションした”WONDAモーニングショット”

更にもう一件、コーヒーの事例です。
AKB48の広告も記憶に新しい、WONDA(ワンダ)モーニングショットもセグメンテーションの好事例です。
昔から誰もが知っていた、当たり前すぎてコーヒー業界のマーケターは誰も気にしていなかった習慣に”あえて”着目。
「朝専用」(裏を返せば、朝以外は飲まれないリスクを冒して)と銘打ってこの商品が登場しました。
TV広告も徹底して「おはようございます」と繰り返した結果、朝の時間帯に爆発的に販売を伸ばし一大ブランドとなりました。
皆さんも朝「コーヒー飲もう」と自販機の前に立つと、この商品は確実に選択肢に入るのではないでしょうか。これが訴求力の強みを活かした素晴らしい「セグメンテーション」です。

 

このように、ヒット商品には市場を小さく束ねて、その中で1位を獲得する、というマーケティング活動が行われているのです。

 

 

上手なセグメンテーション、成功する4つの束ね方

セグメンテ―ションを実際にやってみる、という際に役立つ4つの束ね方をご紹介します。

 

シチュエーションで束ねる

1つ目はシチュエーション(分かりやすく言うとシーン、ですね)で束ねる方法です。
あるカテゴリーの使われ方や、使うタイミングを洗い出してみて、特徴的なシチュエーションやシーンが無いか、考えてみて下さい。例えば、コーヒーギフトのAGFはこの事例に当てはまります。
「お酒を飲めない人に、変わりにコーヒーを贈る」という習慣がある機会に気づき、贈答用コーヒー市場を開花させました。

 

時間・タイミングで束ねる

2つ目は時間・タイミングで束ねる方法です。
あるカテゴリーが消費・利用される時間・タイミングで特徴的な時間帯やタイミングが無いか、考えてみてください。
たとえば朝食の後、とかお風呂に入る前、など、日常生活のルーティーンの前後などに潜んでいることが多いです。事例ではWONDAモーニングショットが当てはまります。

 

人で束ねる

3つ目は人で束ねる方法です。
これは、人の「属性」といった方が分かりやすいかもしれません。
特徴的な特定の集団に所属する人や、特定の属性を持った人に商品、サービスが特徴的に使われていないか、考えてみてください。フレッシャーズ向けのスーツはこの例が当てはまります。
”会社経営者”のような職種、”独身男性”のような世帯の形態などが良くあるパターンです。

 

人の気持ちや価値観で束ねる

4つ目は使う人の気持ちや価値観で束ねる方法です。
特定のカテゴリーを使うとき、大多数の人とは違う気持ちで使っていたり、別の価値観を求めていたりする人はいないでしょうか。
身近なところでは、腕時計は分かりやすい事例です。

 

  • 時間を正確に把握したい人
  • 時間も気になるが高級感の方が大事な人
  • 時間はどうでもよくて、ファッションとして考える人

 

このように、一見大企業が牛耳っているカテゴリーでも、機会に沿って似た者同士のグループ分けをして整理してみると、大手が手を出していないセグメントが発見出来たり、ビジネスチャンスが見えてきたりします。

 

 

ターゲティング

続いては、ターゲティングです。
ここでいうターゲティングとは、広告の配信設定などのターゲティングといったテクニックの話ではありません。マーケティング上重要となる「STP」におけるターゲティングの考え方です。
セグメンテーションのステップで、いくつかに分けたセグメントの中で、あなたが最も勝てる(1番になれる)セグメントを選択することがビジネスにおいては重要です。
そのセグメントを選択すること、ビジネスの相手となる顧客のニーズを鮮明にして明文化することがターゲティングです。
ターゲティングを具体的にどんな記載にすればよいかですが、これには実は決まりがありません。
ターゲティングは狙いたい顧客の想いや悩みを明文化することが大切で、顧客の解像度を高めていく作業になります。

 

 

ターゲティングを設定する際に、とても大切な3つの確認ポイントがあります。

 

  • 経済規模と成長性が見込まれること
  • その市場で、あなたの魅力度と競争力があること
  • 市場が今も、今後も資本力のある大手や競合に乗っ取られる可能性がないか

 

これらの3つのポイントをしっかりとクリアしていれば、収益につながるターゲティングであると判定できます。

 

 

ポジショニング

最後に、ポジショニングです。
ポジショニングとは、その商品でどんな立ち位置を狙うのか、提供する価値を規定することです。
ポジショニングで重要なのは、先ほど定めた「セグメント」に所属する「顧客」に対して、魅力的な立ち位置(提供価値)であることです。
購買決定へ寄与しない提供価値を設定してたとえ差別化しても、それはただの「浮いた存在」となってしまいます。
先程「ターゲティング」の工程で明文化した「顧客の願い・想い」に応える提供価値を考え抜きましょう。

加えて、もう1つ重要なポイントがあります。

 

  • 数値により優位性を示す言葉:「世界一」「日本一」「ナンバー1」「第1位」「一番」「ピカイチ」など
  • トップを表す言葉:「トップ」「最初」「最大」「最大規模」「最小」「最安値」「最高」「最強」「最優秀」「最高峰」「首位」「ベスト」「チャンピオン」「ダントツ」「最も」「至高」など
  • 「初」を表す言葉:「初めて」「最初に」「日本初」「世界初」「第一号の」「第一人者」「元祖」「これまでにない」など
  • 1つしかないことを表す言葉:「唯一」「当社だけ(のみ)」「よそにはない」「独占」など

この4つのキーワードは必ず覚えておいてください。
提供価値を考える時は、この4つのキーワードのいずれかを必ず使って考えてください。

但し、これらの言葉は、景品表示法で定められた「最大級・絶対的表現」に該当する言葉達で、商品に表示する時はエビデンスが必要になります

そのくらい強い言葉を強制的にポジショニングの規定に入れることで、差別性を生み出す手助けをしてくれます。

例えば「唯一、朝飲むとスイッチONした気分になるコーヒー」等。
実際に商品に表示するかどうかはエビデンスの有無で判断しますが、お客様の目に直接触れることは無い設計書ですから、ポジショニングを検討する時は、これらの言葉を必ず用いるようにしてください。

 

加えて、実際にポジショニングを考えてみると、「このポジショニング(提供価値)で本当にいいのかな?」と疑問が沸くと思います。
その時に最も簡単で確実なセルフチェック方法をお伝えします。

 

「そのポジショニング(提供価値)は、ターゲットの顧客が、頭を下げてでも“売ってくれ!”と言ってくれそうですか?」

このように考えて、ポジショニング(提供価値)をご自身でチェックしてみてください。

 

集大成!STPをまとめましょう

さて、STPを説明するこの記事の集大成です。
下記の空欄に、ここまでで決めたSTPを記入してください。

 

私のビジネスは、
(   あなたの業界   )カテゴリーにおいて、
(   セグメンテーション   )という切り口で市場を束ねて展開します。
(   ターゲティング   )のために
(   ポジショニング   )という価値を提供します。
記述例は下記です。(WONDAモーニングショットを例に)
私のビジネスは、
(   缶コーヒー   )カテゴリーにおいて、
(   コーヒーを飲む時間帯   )という切り口で市場を束ねて展開します。
(   朝コーヒーを飲んでスムーズに仕事モードに入りたいサラリーマン   )のために
(   唯一、朝飲むとスイッチONした気分になるコーヒー   )という価値を提供します。

 

これがあなたのビジネスの「設計書」となりますので、印刷し、いつもカバンに入れて持ち歩く!くらいの気概でご自身や社内外の関係者の方たちに刷り込んでください。
実は、「商品・サービス」、「販売戦略」、「キャッチコピー」などのマーケティング戦略は、全てこのSTPを実現するための手段にすぎません。
商品も大切ですが、それより大切なのがこの「STP」です。

今回定めたSTPを実現するための商品・サービスや、販売戦略、キャッチコピーなどを考えていきましょう。

 


 

著者

ヒロヴィンチ

東京都在住。東証プライム上場企業で、マーケティング部門の管理職として従事。 国内外アジアシェアNo,1のブランドを多数担当。

個人事業主、中小企業を中心にコンサルティングも手掛けており、副業サイトで販売額・お気に入り登録数ランキングともにNo,1獲得。(967サービス中)これまでに大手クレジット会社から英会話教室、アーティスト、地元密着の焼き芋店まで幅広い実績。 基本的なマーケティング戦略はもちろんのこと、インサイト開発、広告開発、webマーケティングも手掛ける。