2024年02月12日

製造業

スマートファクトリーはじめの一歩

起業・経営に役立つ知識

 

 

近年、工場のスマートファクトリー化が議論されています。しかし現在のところ、スマートファクトリー化が進んでいるのはかなり大きな工場に限られています。そして中小企業では「スマートファクトリーってなに?」とか、「そんなもの必要ない」という経営者も多いです。

この記事では、まず一般的なスマートファクトリーの概略について説明し、中小企業のスマートファクトリー化についての現状と、最初の一歩の踏み出し方について解説したいと思います。

 

スマートファクトリーの概要

スマートファクトリーの概念は、近年盛んに議論されていますが、最先端のものの考え方でもあり、よくわからないという人も多いのではないかと思います。そこで、もう一度スマートファクトリーの考え方をおさらいしておきましょう。

 

スマートファクトリーとは

スマートファクトリーとは、生産工程を高度に自動化・知能化し、より生産性の高い生産システムを実現した工場のことです。近年、ドイツ政府が提唱している「インダストリー4.0(第4次産業革命)」の具現化でもあります。

 

今までの「イノベーション」の歴史は3つの大きな変革期があり、これを「産業革命」といい、現在は「第3次産業革命」の終わりごろに差し掛かっていると考えられています。そして、第3次産業革命までのイノベーションでは、人間が生産システムに係わることを極力排除し、機械による「効率化・自動化」を追求してきました。

 

これに対し、インダストリー4.0の具現化であるスマートファクトリーでは、生産システムに人間の持つ「柔軟性・創造性」を取り込み、より柔軟で生産性の高い生産システムを構築することを目的としています。

 

スマートファクトリーとデジタルトランスフォーメーション

デジタルトランスフォーメーション(DX)とはデジタル技術を使って、生活全般をより良い方向に変化させることをいいます。つまり、デジタル技術を使って人間の活動を効率的・生産的・創造的に進化させることです。

 

ここでいう「人間の活動」には「企業活動」も含まれます。この中には、製造業の生産活動も含まれ、これは特に「製造業のDX」と呼ばれます。そして、スマートファクトリーはこの「製造業のDX」の具現化の一部でもあります。

 

スマートファクトリーの考え方

スマートファクトリーの中心的な考え方に、サイバーフィジカルシステム(CPS:Cyber-Physical System)があります。CPSは現実世界(フィジカル空間)の観測データなどの情報を、仮想空間(サイバー空間・コンピューター空間)で定量的に分析を行なうことで、経験や勘に頼っていた事象を効率化するという考え方です。

 

つまり、いままで人間の作業員が勘や経験に基づいて行っていた作業は「柔軟性・創造性」に属する部分ですが、これをデータ化し、「見える化」することで、社内で共有し、生産性の向上に役立てるということです。

その結果、人間は、より経験と勘が必要な作業、すなわち、より「柔軟性・創造性」を必要とする事象に専念することができるようになります。

 

広い視野で見た時には、このプロセスは人間と機械が協調して生産システムを構築しているように見えます。人間の「柔軟性・創造性」を生産システムが取り込むために機械が人間に近づいてきていると考えることもできます。

その結果、人間の持つ経験や勘を属人的なものとせず、社内で一般化し、可能な限り様々な人が利用可能にすることで、ノウハウの共有や技術継承に役立てることができます。これがスマートファクトリー化のメリットの一つです。

 

 

 

 

スマートファクトリーと中小製造業

つぎに、スマートファクトリーと中小製造業との関係について説明します。

 

中小製造業の現状

現在、製造業全体の景気がまずまず好調なことから、多くの中小製造業の業績も堅調に推移しています。しかし、このような好調の時に自らを分析し、次の方向性を探っておかなければなりません。

 

現在の中小企業の課題はやはり「生産システムの強化」と「経営力の強化です」。

生産システムの強化と経営力の強化は一体不可分です。経営力とは本質的には「稼ぐ能力」です。そして、多くの中小製造業の稼ぎは生産システムの能力に依存しています。したがって、生産システムの強化が経営力の強化に結び付いています。すなわち、外部の経営環境が変化しても稼ぎ続けることのできる生産システムの構築が求められているのです。

 

また「稼ぐ力」とは「売り上げを上げる能力」も含まれますが、本質的には「利益を上げる能力」です。生産スピードを上げ、同じ製品を短時間に大量の製品を作ることで利益を確保するという単純なビジネスモデルが通用しなくなってきています。

 

そのため、生産システムには多様な製品に対応できる「柔軟性」が求められるようになってきています。さらに、生産システムには新しい事象に対応できる「創造性」が求められているのです。

 

一方、中小の製造業には大企業にはまねのできない「柔軟性」「創造性」がもともと備わっていることが多いです。しかし、「資金不足」や「保守的な風土」、「情報不足」、「今の業務で手がいっぱい」などの問題から、なかなか「生産システムの改革」に取り組むことが難しいという事情があるのです。

 

つまり、生産システムの変革を行うと改善する余地があるのに、さまざまな理由からそれが難しいという問題があるのです。

 

中小企業のスマートファクトリー化の考え方

以上の前提を踏まえたうえで、中小企業がスマートファクトリー化「最初の一歩」の踏みだし方を考えてみましょう。

 

現在、スマートファクトリーに関する情報は主に大企業向けです。また、それにかかわるコンサルタントも大企業で実績を重ねた人が多いです。そのため、情報に惑わされて「小規模のウチには適用できない」と考えている経営者は多いと思います。また、資金を気にする人も多いと思います。

 

中小製造業が可能なスマートファクトリー化の第一歩は「生産システムのデータ化」です。つまり、職人や技能者、技術者の経験や勘を可能な限り明文化・数値化・データ化し、生産システムの「見える化」を推進することです。これにより、経験の浅い人でも、ある程度の品質の製品を短期間で作れるようになります。

 

そうすると、今までの「徒弟制度」的な技能の習得の考え方も変化してきます。もちろん今までのやり方もうまく維持しつつ、新しい考え方を取り入れることで社内の風土が改革され、特に若い人たちに活気が出てきます。これが、中小製造業のスマートファクトリー化のまず目指すべき目標であろうと考えられます。

中小製造業のスマートファクトリー化は形に捉われず、自由な発想で、できるところからスモールスタートで行われるべきです。

 

 

中小企業のスマートファクトリー化のポイントは意識改革とスモールスタートです

以上、中小企業のスマートファクトリー化についての考え方を解説しました。正直な話をすると、中小企業のスマートファクトリー化は簡単にいかないのが現状です。なぜかというと、実績のあるコンサルタントの知見や持っている情報が大きな工場向けのものが多いためです。また、冒頭でも述べたように、従業員や経営者の興味が「技術そのもの」に向いており、意識が「工場全体の最適化」までいかないという現状もあります。

 

しかし、時代は大きく変化しています。中小企業向けのスマートファクトリー化に強いコンサルタントもこれから増えていくことが予想されます。

 

また、大きな括りでは工場や仕事や経営に対する考え方や意識の変革もスマートファクトリー化の一部です。まずは情報収集と学習から始め、スモールスタートで出来るところから、スマートファクトリー化を考えてみてはいかかでしょうか。