2022年12月16日
デザイン
デザインへの無理解は経営にデメリットしかない
起業・経営に役立つ知識
最近いろんなところで使われている「デザイン」という言葉。
皆さんは「デザイン」と聞いてどんなイメージを思い浮かべますか?
起業や創業、ビジネス、経営に関する書籍やその他多くのメディアでも数多くのデザインという言葉が使われています。しかし、そのデザインという本来の意味まで理解できているという方は少ないのではないでしょうか?
今や「デザイン」への無理解は仕事をするうえではデメリットしかないと思います。
皆がデザイナーになる必要は全くありませんが、デザインを知りうまく運用するためのデザインマネジメントは経営戦略として無視できないものになっています。
まずはありふれているゆえにわかりにくく、ビジネスとも関わりの深い「デザイン」のことを理解することから始めてみましょう。
デザインとは何か?
まず、知っておいてほしいことは、デザインとは色や形など外観的な美しさや美的センスを問われるものだけを指す言葉ではないということです。
美術の授業が苦手だった、絵を描くのが不得意だ、ということで苦手意識を持つ必要はありません。
国語辞典などで「デザイン」を調べると以下のように説明されています。
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言葉的には難しくないのに、ちょっとわかりにくいですね。また、ビジネスへの関わりは限定的なものではないか?との印象も受けます。
上記の説明で最も大事な部分は「機能や美的効果を考慮して」という部分。
「機能や美的効果」をどのように考慮し、どのように立案、設計するのか?という、この「どのように」を考えることが「デザインをする」ということであり、ビジネスで最もデザインが深く関与する部分です。
「機能や美的効果を考慮する」とは単に機能性を高め、美しくするために考えるということではなく、時には機能性を低くしたり、それほど過度に美しくせずに、素朴な美しさにするなど、つくる商品やサービスに合わせて「どのように」を設定し考えるかということなのです。
服をデザインする場合に例えると、服そのものの形や色を考えることもデザインですが、着る人のことにも思いを巡らし、この服を「どのように」すると着た人がどうなるか?着る人はどう思うか?着たい人はどうするか?などその服が与える影響についても考慮し設計をすることもデザインなのです。
時にこの「どのように」をすぐに「売れるように」に置き換えて考えられる方もおられますが、本質的に考えると「売れる」ということは結果論であり、消費者から必要とされるから「売れる」のです。
つまり、「どのように」すれば消費者から自分のサービス、商品が必要とされるのか?を考えることがデザイン作業の第一歩目となります。
これは「どのように」という課題の設定であり、デザインのゴールの設定でもあります。
デザインとはデザイナーだけのものあらず
ここで大事なことが、このデザイン作業の一歩目である課題の設定と、ゴールの設定にデザイナーは関与できるか?ということです。
答えはもちろんほとんどの場合が否。
すぐ近くに知り合いのデザイナーがいたり、契約デザイナーがおられる場合は相談という形で関与することは可能かもしれませんが、段階としては企画が動き出す前の段階であり、その企画の目的であるゴールの設定には、外部の人材であるデザイナーはほとんどの場合は関与できません。
ではこの課題設定とゴールを誰が考えるのか?
それは自ずとこの企画の担当者や経営者の方が担当することになるでしょう。その担当者がデザインに理解があるか、理解がないかということはその後の行程において、大きな違いとして出てくることは明らかです。
一般的にデザイナーの仕事と思われている、モノの形態を考えるデザインワークについても、その理解がなければ、ゴールを目指すためにデザイナーへ的確な指示や要望を伝えることも難しくなるでしょう。
デザイナーも人ですから能力や特徴はさまざま、完璧超人ではありません。また、業務を請け負っているという立場上、クライアントの要望を反映させるのはデザイナーの務めです。
ゆえに赤から青にしてくれという指示があれば従うほかありません。それが間違った指示であってもです。
間違った指示を出さないためにも、デザイナーの力をうまく引き出し、マネジメントしコントロールするためにも、デザインへの理解は大事なことなのです。
ここまで読んでも、「製品やサービスは結果が全て。同じゴールを目指せれば、デザインとかよりも本質である中身の方がもっと大事だろ?」と思われる方もいらっしゃると思います。確かにそういう風に考えることはできるかもしれません。
ですが、デザインのゴールの一つでもあるその見た目は消費者とフラットにコミュニケーションできる大事な部分です。
どんなに思考を巡らせ、時間と労力をかけ頑張って作り出したものであってもそのことが伝わらなければ意味がありません。誠意を持って仕事をすれば、消費者は理解してくれるというのは幻想です。その誠意を形として表現する必要があるのです。
加えていうならその誠意もユーザーが求めるに資する誠意でなければなりません。求められない誠意は自己満足で終わってしまいます。
逆に言えば、デザインを理解し、確かなゴールを目指し誠意を持って真剣に仕事に臨めば、その誠意や真剣さは形としても現れます。
なぜなら、デザインは、中身の良さで外見の良さが、外見の良さで中身の良さが、その双方の良さによる相乗効果で、さらにより良いものにすることを目指しているからです。
そのためには中身を作っていく中で、確かなゴールを目指すその過程も大事なものになっていきます。
デザインの考え方
ではそういうものを作るためにはどのように考えていけばいいのでしょうか。
デザイナーが発想の拠り所としているものが、ユーザーニーズとコンセプトです。
ユーザーニーズとはそのモノに対して、ターゲットとなるユーザー(消費者)が何を求めているか、何を求めるかということを、さまざまな情報をもとに立てる仮説のこと。
コンセプトとは作る側にとっての、モノを作る際に設定する「理念を基とする、終始一貫させる軸となる考え」のことです。
その二つを掛け合わせ、最適なゴールを目指しデザイン案を考案し作っていきます。
例えばパンのパッケージをデザインする場合、ユーザーニーズが「焼きたての美味しいパン」でコンセプトが「食卓を笑顔にしたい」であれば、「食卓を笑顔にしたい」人にとっての「焼きたての美味しいパン」とはどういうものかということを軸にパンが焼きたてであること、それが美味しいことをどう表現するか、それに加え食卓を囲む人がどういうパンであれば笑顔になれるのかを考えます。
ここがデザイン作業の一番難しいところなのですが、この時点で正解と呼べるデザイン案を導き出すのはほぼ不可能です。なぜならこの問いには正しい一つだけの答えなどないからです。
見方を変えればその答えも変わってきます。
ユーザーニーズという仮説の上に、こうすればコンセプトに合わせた上でのユーザーニーズへの答えになるのではないか?という仮説を立てる、
つまり仮説の上に仮説を立てる作業なので、求める答えに近づけるためには試行錯誤、いろんな角度からの検証が必要になってきます。
ここをこうすればもっと焼きたて感が増すのではないか?ここをこうすればもっと美味しそうに見えないか?ここをこうすれば食卓を囲む人が笑顔になってくれるのではないか?そういう試行錯誤を繰り返し、確かなゴールを目指すのです。
その時デザイン案を作るというカタチにする作業は試行錯誤の助けとなります。カタチが見えるとその課題もより明確に見えてくるからです。
この作業全体のイメージとしては「どのように」という課題を土台に、試行錯誤で解決案を厳選し積み上げ、ピラミッドのように頂点を作っていくイメージです。だからこそ、土台となる「どのように」という課題設定とゴールの設定が大事なのです。
脆弱な土台であったり、土台の形が変わってしまうとたちまちピラミッドは崩れてしまうでしょう。また、ゴールという頂点の場所を示す設計図がないと歪な形のピラミッドになるかもしれません。
デザインの話ということで、パッケージデザインに例えて説明しましたが、これは経営に関しても同じことが言えます。
経営についてもユーザーニーズがありコンセプトが必要で、課題がありゴールの設定は可能です。これは同じ思考方法を使ってビジネス、経営を組み立てることもできるということです。
そのことは「デザイン思考」と呼ばれ、近年の市場構造の変化を背景に注目を集めているそうです。
ご興味のある方は「デザイン思考」で検索するとさまざまな解説サイトが立ち上げられていますので、ぜひ目を通してみてください。
そして、デザインをビジネスに有効活用してみてください。
著者
南新太郎
佐世保市在住。design373(http://design373.net/)代表。
アウトサイドディレクターズカンパニー(東京)にて様々なデザインワークに従事したのち2013年、フリーランスとして地元佐世保に戻り、design373を立ち上げ。個人事業主や中小企業を中心に広告や各種プロモーションツール、イラストレーションなどグラフィックデザインに関わる業務全般のサポートを行っている。デザインとは見た目を整えるものではなく、経営にコミットし売上をつくるツールであるとの認識から、経営者がデザインへの知見を深めることが必要と考え活動中。