2022年12月05日
ブランディング
あなたの会社をブランドにする方法【ブランディング】
起業・経営に役立つ知識
最近、「ブランド化したい」「我が社にはブランドが必要だ」「うちにはブランド力が無いからなあ」ということをよく耳にするようになりました。
ブランドという言葉は私たちの生活の中で馴染みのある言葉ですが、実際にブランドがなんなのかを理解している人はそう多くないと感じています。
ここでは皆さんに知っているようで知らない、分かっているようで分からないブランドについてお話しします。
企業経営のなかでブランドが語られるようになってきたことの背景には、従来のマーケティングや販売促進の打ち手では対応できない問題があり、それをブランドを作ることによってなんとか打開したいという思いがにじみ出ているようにも感じます。
しかし「ブランド化したい」と思っても、ブランドが一体何かを知らないとブランディング(ブランド化)はできません。会社や商品・サービスをブランディング(ブランドづくり)していくためには、まずはブランドとはどういうものなのかを知る必要があります。
みなさんが「ブランド」と聞いたときに思い浮かぶものは何でしょうか。ファッションに興味がある方はファッションブランドを連想しますし、クルマが趣味の方は憧れの自動車メーカーを思い浮かべるでしょう。こうした例に留まらず、食品などの生活必需品から嗜好品まで、私たちはさまざまなブランドの商品に囲まれています。この場合は大抵、ブランド=著名な商品名(会社名)と捉えられていることが多いようです。
またブランドとは商品や会社の特性を表すと考える方もいます。「品質が良い」「高級・高価」「良く名前が知られている」「信頼や安心」などです。商品を紹介する際にわざわざ「信頼のブランド」などと枕詞を使う場合もあります。ブランドのロゴやマークが入っていることで、その商品の品質が保証されていると感じることなどが挙げられます。
例えば、あなたが店頭でステーキ肉を買おうとしているとします。どちらも霜降りの具合や色艶など見た目はほとんど変わりません。しかも値段は全く同じです。ただし一つだけ違う点があります。片方のお肉には「松阪牛」という札がついていて、もう片方のお肉には単に「国産」と書いてある札がついています。さて、あなたはどちらのお肉を買うでしょうか。
この問いに対してほぼ100%の方が「松阪牛」という札がついている牛肉を買うと答えます。見た目、価格が同じでもブランドがあるか否かで買ってもらえるかどうかが大きく変わってくるということです。さらに言えば、価格が高くてもブランドのお肉を買うという層も一定の割合で存在します。(品質は同じとしても!)そのためどの会社もブランドをつくりたい、ブランドになりたいと考えるのは至極当然のことです。
ここで大事なことは「松阪牛」という札をつけるだけでブランドになれる訳ではないということです。ブランドはブランドになるべくしてなった理由があります。ブランドになるために行うべきことがあるのです。そしてそれらを実行していくことでブランドへの道が近づいていきます。
ブランドの語源は古代ノルド語の「Brandor(焼印をつける)」という意味の言葉が語源とされています。
アメリカのマーケティング協会では「ブランドとは、個別の売り手の財やサービスを識別させ、競合他社のものと区別するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、およびその組み合わせ」とされています。つまりブランドの基本的な定義は、識別するための印です。しかし識別されるだけではブランドであることのメリットが享受できません。識別されたうえで購買されることが目標です。そのためには商品やサービスを通じて高い満足を提供し続けていく必要があります。
焼印の例で言えば、最初は自分が所有する牛と他人の牛を区別する手段として「焼印」が使われていました。次に牛が市場に売りに出される際には、焼印は買い手の目印となります。この段階では焼印は「Aさんの牛」「Bさんの牛」を区別するための単なる目印です。しかし買い手が牛の品質に満足すると、次も同じ焼印を目印にして牛を買うようになります。その満足が繰り返されることで、次第に買い手の間に特定の焼印に対する評判が広がっていくことになり、焼印が信頼の証(ブランド)として知られていくことになります。その結果、この焼印の牛を選べば間違いないという信頼が確立し、他の牛よりも優先的に売れていく、しかも高値で売れていくようになります。ここまで来ると立派なブランドです。
ブランディングとは商品の販売拡大のためにあるものと誤解しがちです。実際、「ブランド化したい」「ブランドを作りたい」と考える企業は自社の商品・サービスを購入してもらうことを目的としています。これは間違いではないのですが、販売を拡大するだけであればマーケティングを強化すれば良い話です。ではなぜブランディングが必要なのでしょうか。
マーケティング立案の際に使う「4P分析」という代表的な手法があります。これは市場における4つのP、すなわちProduct(製品)、Price(価格)、Place(立地)、Promotion(販売促進)を分析することで販売を強化しようとするものです。この4つの視点からわかるように、マーケティングは顧客を増やし、販売数を増やすことが目的です。「売る仕組み」づくりとも言い換えることができます。
ブランディングにおいてもマーケティングは重要で、その立案過程ではマーケティングと同様の手法を用いることもあります。しかしそれはブランディング施策の一部でしかありません。焼印の例では信頼が確立されることで、優先的にかつ高値で牛が売れるようになると書きました。顧客との関係性づくりに力点を置き、売るだけではなく「売れ続ける仕組み」をつくるのがブランディングです。
あなたの会社の商品・サービスを買ってもらう場合を考えてみましょう。マーケティング的にはライバル会社の商品よりもパッケージを目立たせて、値引きをすれば売上は伸びるでしょう。またテレビCMを集中的に投下することで消費者の認知も高まり、店頭でライバルよりも目立つ売場を確保でき、さらに売上は伸びるでしょう。
しかしライバルが自社よりも値下げをしたら?より大きなキャンペーンを展開したら?
顧客は喜ぶかもしれませんが、消耗戦となりどんどん体力を奪われていきます。こうした売上競争で勝つのは体力のある方ですが、勝った方も疲弊することは間違いありません。値引きや広告によって「買ってください」とアプローチするのがマーケティングだとすれば、ブランディングは顧客に「このブランドが好きだから買う」と思ってもらい行動を促すことです。
ブランディングでも顧客から認識してもらうためにマーケティングや広告を行いますが、必須ではありません。一時的な売上をあげることよりも、顧客と良好な関係を長期的に築くことを目的としています。
例えば「おしゃれな洋服を買いたい」「頑丈な車が欲しい」「最高の休日を楽しみたい」「おいしいレストランに行きたい」と顧客が思った時に真っ先に思い浮かべ、買っていただくための包括的な施策がブランディングです。価格ではなくブランドによって商品・サービスが選ばれる時、価格への抵抗は少なくなります。また多少品質で劣っていたとしてもブランドへの愛着が上回ることで購買につながります。
顧客の心の中にブランドとして定着するまでには、商品・サービスを通した高い満足や憧れなどポジティブな記憶や感情が継続的に蓄積されています。だからこそ「ここぞ」という時に選ばれるのです。
このようにブランディングは、自社や商品・サービスが「こう思われたい」というイメージを発信し、顧客に「こう思うよ、こう思った時には買うよ(買いたいよ)」と考え、行動してもらうようにする活動なのです。
世界的なブランドコンサルティング会社であるランドーの創始者ウォルター・ランドーは「製品は工場で作られるが、ブランドは心のなかで創られる」と言いました。
あなたが目指したいブランド、つくりたいブランドとは、顧客にどう思われたいものですか?
著者
イチロー
佐世保市在住。株式会社つむぎラボ(https://tsumugi-lab.co.jp)代表。
総合広告代理店勤務を経て、ブランディングを専門に手がけるつむぎラボを立ち上げ。
目の前の課題解決のみにフォーカスする部分最適の「戦術」ではなく、経営理念にコミットした全体最適のソリューションとしてブランディングによるサービスを提供。新規創業者や市内外中小企業の認知向上、販売促進から求人といった課題に対して、理念開発からテレビCM、ウェブサイトまで幅広い施策を展開。
一般社団法人ブランド・マネージャー協会1級、INPITブランド専門家