2022年12月19日
書評
【書評】THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す
起業・経営に役立つ知識
出版社:三笠書房 著者:アダム・グラント(著)、楠木 建(監修、翻訳) |
「考えること」よりも「考え直すこと」のほうが重要。
2014年に出版された『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』の著者であるアダム・グラント氏による著書を紹介します。
本書では「再考して、自分の考えをよく変えることが大事だ」と書かれています。この言葉を前にして私たちは、昔からいろんな人に刷り込まれてきた「ころころ考えを変えるな」という教えと矛盾する…この気持ち悪さと向き合わなければなりません。
ころころ考えを変えるのは、よくないのでしょうか。そこで、本書の教えどおり「再考」をしてみようかと思います。
「ころころ考えを変えること」は本当にいけないことなのでしょうか?
ころころ考えを変えることが「よくない」場合
自分の頭で考えずに、意見を変える。
これは「よくない」場合に当てはまります。
A課長が「A案がいいね」といったら、自分も「そうですね、A案で行きましょう」と意見を変える。
B課長が「B案がいいね」といったら、自分も「そうですね、B案で行きましょう」と意見を変える。
こうやって、ころころ考えを変えていては、いつまでたっても、どの案でいくか決まりません。それに、A案になろうがB案になろうが、自分の思考が全く投入されていないので、ただの「やらされ仕事」になります。
「やらされ仕事=作業」になった瞬間、クオリティが劇的に下がってしまいます。「思考停止」→「仕事の作業化」→「クオリティの低下」というメカニズムは、誰もが一度は目にしたことのある光景でしょう。
ころころ考えを変えることが「よい」場合
自分の頭で考えぬいたうえであれば、考えを変えて「よい」。それが、『Think Again』で言いたかったことでしょう。
では、「自分の頭で考えぬいたうえで、考えを変える」とはどういうことか?
本書の表現を借りると、
- 過信サイクルを自覚し、再考サイクルへと切り替えること
- 自信と謙虚さの均衡点を保ちながら、物事と向き合うこと
この2つのことを意味しているようです。
過信サイクルと再考サイクル
過信サイクルとは、以下の流れに陥ることです。
- 自尊心の高さから、自分の考えに確信を持ちやすい
- 確信を持っていると、次の2つのバイアスが生まれやすい
- 確証バイアス:自分が持っている知識や前提から予期するものに視点が偏るものの見方
- 望ましさバイアス:自分が見たいものを見たいように見るものの見方
- 以上のバイアスから「自分の考えは正しい」と是認する(思い込む)
- 「自分の考えは正しい」と是認すればするほど、さらに自尊心が高まる
特に、周りから「優秀だ」「頭がいいね」って言われてきた人ほど、このサイクルに陥りそうなので、気をつけてください。
次に再考サイクルとは何かというと、
- 無知を自覚する=知的謙虚さを持っておく
- 知的謙虚さを持っておけば、自分の考えが本当に正しいのか、常に懐疑的でいれる
- 懐疑的であれば、「本当は何が正しいのだろう?」と常に好奇心を持っていられる
- 好奇心があれば、常に新しい発見を得られる
- 新しい発見を得るたびに、「うわー、自分って知らないこと多いなー」と、より謙虚になれる
何とも素敵なサイクルですね。
自信と謙虚さのバランス
しかし、ここで一つ困り事が出てきます。
あまりに謙虚になりすぎて、自分の考えに懐疑的になりすぎると、だんだん自分の考えに自信を持てなくなります。しかし、筆者はこの「自信と謙虚さ、どっちを取ればいいんだ問題」に補助線を引いてくれます。
「自分のやりかたに対する確信」と「自分自身に対する確信」に分ける。
これが、筆者が提示してくれる補助線です。
自分自身に対しては、「自分は高い能力を持っているんだ」と確信して大丈夫。自己肯定感を強く持っていただいて大丈夫だということです。
しかし、自分のやりかたや考え方に対しては、常に謙虚でありなさい、と。
こうすることで、自信と謙虚さのバランスを取ることができます。
一見すると矛盾する「自信と謙虚さ」を両立させるあたり、筆者の力量の高さがが伝わってくる一冊です。