2024年10月08日

創業支援

中小企業診断士が実際に相談を受けた起業相談のあるある3選

起業・経営に役立つ知識

 

著者は中小企業診断士としてこれまで、100件以上の創業相談に応えてきました。そんな経験から、起業相談の「あるある3選」についてまとめてみます。

 


 
 

 あるあるその1:起業のアイディアは頭の中にあるだけ…

起業を考えている段階にもよりますが、皆さん、「こんな事業をやりたい」、「こんなお店をつくりたい」といったお話をしてくれます。しかしながら、具体性がなかったり、収支の見通しが甘かったり、話している中でアイディアがブレ、一貫性がない方もいらっしゃいます。

 

それらの方の共通点は、起業のアイディアが頭の中にしかないことです。
起業にあたり、事業計画書は重要であるとよく言われますが、本当です。
理由は、文字に起こすことで頭の中のアイディアを客観視することができることにつきます。

それにより、

  • その事業に足りないものが判明する。
  • 計画書を練り直す中で、事業計画書が壁打ち相手となる。
  • 家族や事業関係者、銀行など他人と共有しやすくなる。

といったメリットがあります。

 

事業計画書作成のデメリットは、時間がかかることしかありません。初めて作る事業計画書ですから、何を書いていいのか分からないのは当然です。頭の中のアイディアをそのまま書き出し、下の項目に当てはめてください。足りない項目は、アイディアの不足部分です。
起業後の未来を創造し、楽しみながら作成することをおススメします。

 

 

最低限記載する内容

顧客 対象としているお客様はどんな人?
自分 起業で提供しようとする商品・サービスは何?競合との違いは?
競合 直接競合となる企業はある?
資源 事業をする上で、必要となる人、モノ(機械や店舗)は?
お金 起業に必要となる金額を具体的に積み上げる
収支目標 毎月、いくら売上があって、経費を支払い、利益をいくら残す?

 

これらを一度、書き出し、想像してください。

 

  • あなたが提供しようとしている商品・サービスを、事業計画書のお客様は本当に買ってくれますか?
  • 事業を運営する中で、人やモノは足りますか?
  • この価格設定と客数で本当に利益は残りますか?

 

これらの自問自答や関係者との協議により、その事業内容は磨きがかかり、より事業の成功に近づきます。もちろん、これらのブラッシュアップは事業計画書を基に行われます。だから、事業計画書は重要と言われています。
箇条書きやなぐり書きでも構いません。文字に起こすことが大切です。

 

 

 あるあるその2:スタートの形態は個人事業主?法人どっちがいいの?

起業にあたり、事業形態は個人又は、法人のどちらかからスタートします。ここでいう個人とは個人事業主のことで、自営業と称されます。法人については、株式会社が一般的ですが、その他にも合名会社、合資会社、合同会社があります。最近、増えているのは合同会社です。法人を選択するのであれば、株式会社又は合同会社を選ぶことが大半ですので、この二つの特徴を説明します。

 

株式会社

  • 「会社=株式会社」といった世間のイメージがあり、社会的信頼性が高いです。
  • 役員任期は最長10年のため、その都度、重任登記が必要です。
  • 出資者(株主)と経営(取締役)が分離しており、第三者から出資を円滑に受けられます。

 

合同会社

  • 知名度が低いため、一般消費者や求職者から法人のイメージが分かりづらいです。
  • 代表者の名称は、「代表社員」と法律で決まっており、名刺に「代表取締役」は使えません。
  • 役員任期の期限がなく、決算公告の義務もないため、事務処理の負担が少しだけ軽減されます。

 

私が相談を受ける中で、最も多い誤解は税金についてです。

「合同会社の方が株式会社より税金が安いでしょ?」と聞かれます。実は、税金や社会保険料に関しては、全く同じになります。税金面は同じですので、両者を選択する基準としては、一般消費者、取引先、従業員等の外部に対する信頼性をどの程度、重視するかによります。

 

合同会社を選ぶ場合は、若干の事務処理軽減や設立費用を安くすることはできます。例えば、従業員10人未満の合同会社AAAが居酒屋BBBの店名で事業を行う上で、顧客は居酒屋BBBを認知するため、会社形態の違いで信頼性は変わらないと思います。また、BtoBで取引先が限定されている場合も同様です。このような場合は、合同会社を検討しても良いかもしれません。

 

さて、話を戻して、起業時の事業形態の判断基準として、私は次のように説明します。「基本的に、個人でスタートした方が良いと思います。ただし、お客様や取引先から、法人化しないと取引できない、と言われた場合は、法人にしてください。」と述べています。

理由は、二つあります。初めに、時間とお金のコストです。

法人の設立費用は、合同会社で約11万円~、株式会社で約25万円~が一般的です。司法書士に依頼する場合は、さらに報酬が発生します。また、年間の事務費用(税理士報酬)や役員報酬による社会保険料(会社負担分)の支払い等、スタートしたばかりの法人であっても、これらの支払いに猶予はありません。加えて、個人と比べ法人は、お金だけではなく、直接収入につながらない事務処理が煩雑となり、時間を要してしまいます。まだ、事業が軌道に載っていない段階でこれらのコストはもったいなく、収益に繋がる活動に注力した方が良いです。

二つ目の理由は、法人化はいつでもできることです。

個人から法人成りに年数の縛りはなく、いつでもできます。一般的には、事業が軌道に載り、従業員を数名雇用するようになる段階で検討される方が多いと感じます。
また、法人設立は費用がかかるものの、比較的簡単にできます。しかし、法人を解散するには、取引先との調整や行政への手続き等で、設立と比べ何倍もの時間と手間を要します。
以上の理由から、まずは個人事業主から始めることをおススメします。

 

 

あるあるその3:友人と共同経営は可能なの?

最後に、共同経営についてです。「友人と一緒に起業します」とお二人で相談に来られることがあります。確かに、一人よりも二人、二人よりも三人の方が心強いし、お互いの強みを発揮することで事業に相乗効果も出てきます。メリットがある一方で、デメリットもあります。

 

メリット

資本金が増える 共同出資により、資金を増やすことができます。これにより、事業の拡大や新たな投資が可能になります。
不得手な部分を補い合える 各々の得意分野を活かし、経営に必要なスキルを補完できます。友達との連携で、効率的な業務運営が期待できます。
就業不能のリスク回避 一方が病気や怪我で働けなくなっても、もう一方が事業を継続できるため、リスクを分散できます。
メンタル面のサポート 孤独感を軽減し、ストレスを共有できる相手がいることは大きなメリットです。
客観的な判断ができる 意見の対立を防ぐために、客観的な視点から判断できることがあります。

 

デメリット

 

意思決定の遅れ 意見の相違や調整が必要なため、意思決定に時間がかかることがあります。
仕事量の偏りによる不満 一方が負担を感じる場合、不満が生じることがあります。
方向性の違い 経営理念や目標について意見が合わないことがあります。
金銭問題 出資比率によって意思決定権が異なるため、金銭的な問題が発生することがあります。
責任の所在が不明確 誰がどの部分の責任を持つのかが曖昧になることがあります。

 

 

共同経営を成功させるポイント

 

関係性を明確にする 役割分担や意思決定権を明確にし、コミュニケーションを密に取りましょう。
方向性をすり合わせる 経営理念や目標を共有し、一致させることが重要です。
役割や業務範囲を決める 誰がどの業務を担当するのかを明確にしておきましょう。
コミュニケーションの取り方を決める 意見交換や問題解決の方法を共有し、円滑なコミュニケーションを心掛けましょう。

 

 

大企業や中企業と比べた場合、小規模事業者の構造的な強みは、意思決定の速さです。例えば、飲食業を運営する会社がメニューや価格の変更をする、新たな設備投資や店舗を新設する等、組織のある企業は社内会議や上司に承諾を得る必要があり、時間を要します。
しかし、小規模事業者は代表者の判断だけで、それらを実行することができます。それだけ、迅速に時代や顧客のニーズに対応することが可能となります。

メリットだけを考えて共同経営を選択するのではなく、デメリットも十分に考慮した上で判断をしてください。特に法人で事業を行う場合は、出資(株式)比率によって何も決められない場合や、逆に出資比率の高い共同経営者の立場が強くなる等、注意が必要です。
可能であれば、前述のメリットを享受しつつ、共同経営ではなく協力を築けるような関係を模索してみるのも一つの方法です。

 

まとめ

今回、私が起業相談を受ける中で、よく聞かれる内容を3つ紹介しました。

他にも相談内容は多岐に渡ります。行政が行っている起業相談や銀行、士業、民間のコンサルタントも創業支援のノウハウを有しています。様々な人の意見を聞くことで、気づきも出てきますので、上手く活用することをおススメします。

 

 

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著者プロフィール

清代茂樹

中小企業診断士。大学卒業後、金融機関で個人、法人を対象に事業性融資等の営業を担当。その後、中小企業診断士として、公的機関で中小・小規模事業者からの経営相談に従事する。
広島県中小企業診断協会所属。